リコーイメージングスクエア銀座の最後の個展となる 角田和夫写真展『哀糸豪竹』とは?

写真左から、写真展をプロデュースした村山功氏、写真家・角田和夫氏、A.W.Pディレクターの池永一夫。
写真左から、写真展をプロデュースした村山功氏、写真家・角田和夫氏、A.W.Pディレクターの池永一夫氏。

「今までにない写真展にしたい」

 『哀糸豪竹』という四字熟語をご存じだろうか。「うらがなしい音を出す琴と力強い音を出す竹笛。この二つの楽器が織りなし奏でる音色が人の心にしみ渡るさま」を表し、「性格の全く違う二つの音のハーモニーが人を感動させる芸術の奥深さ」とでも解釈できようか。芸術に関心のある人間にとっては、心がざわつく熟語である。

 その興味深い『哀糸豪竹』を題名とした写真家・角田和夫の写真展が、いま東京・銀座で開かれている。1月24日、写真展の3人のキーパーソンによるトークイベントが行われるというので、会場のリコーイメージングスクエア銀座 8階ギャラリーA.W.Pに足を運んだ。

 登壇したのは、写真展のプロデューサー村山 功、A.W.Pディレクター池永一夫、そして角田和夫の3氏。

 角田氏は国内外で高く評価されている写真家で、「第11回林忠彦賞」を受賞し、フィリピンのデ・ラ・サール大学で教授を務めたこともある。世界最大級の写真販売フェア「パリフォト」では、その作品が100万円近い値で売れる人だ。にもかかわらず、一般的な知名度は必ずしも高いとは言えない。そこで、村山氏と池永氏は、「もっと多くの人に角田さんのことを知ってほしい」と、並々ならぬ熱意でこの写真展を企画した。

展示写真はすべて購入が可能。非売品と書かれたものは係員に相談してみよう。
展示写真はすべて購入が可能。非売品と書かれたものは係員に相談してみよう。

 実は、リコーイメージングが運営するスクエア銀座はスクエア新宿と統合されるため、2月29日をもって終了する。数多くの写真展が開催されてきたギャラリーA.W.Pでの最後の個展となるのが、角田氏の『哀糸豪竹』なのだ。A.W.Pディレクター池永氏の角田氏への思い入れのほどがうかがえる。

 そして、池永氏が「今までにない写真展にしたい」とプロデュースを依頼したのが、フォトエージェンシー会社であるゼータイメージ(東京)の村山社長。20年以上にわたり、数千人のフォトグラファーと仕事をしてきた写真の目利きだ。『哀糸豪竹』というタイトルの考案者でもある。

子どもに名前を付けるつもりで考え抜いたタイトル

 イベントでは写真の大家を囲んで写真論が展開されるのか、と思いきや、話は意外な方向に転がっていく。角田氏に対する第一印象を、池永氏は「高圧的で苦手なタイプ。あまりお付き合いしたくない」だったと言うのだ。一方の村山氏は、第一印象こそ「優しい写真を撮る人」だったものの、付き合いが深まるにつれ、「もうちょっとしっかりしろよ、とイライラしながら付き合っている」と語る。「食事をしたときに、角田さんが過去に受けたイジメの話を一方的に延々と話すので閉口した」などのエピソードを聞くと、角田氏が高名な写真家というより、根は優しいけど人付き合いの苦手なおっちゃんに見えてくる。

 さらに村山氏は、20歳も年上の角田氏に対して「僕は彼を自分の子どもだと思っている。守り抜くという覚悟でやっている。そんな彼の写真展なので、タイトルも子どもに名前を付けるつもりで考え抜いた。池永さんと僕が愛情を注げば成長してくれるんじゃないかと期待を込めて付けた」とまで言う。

 だが、角田氏の人間性にまで踏み込んだ、二人の発言には理由があった。角田和夫の写真を理解するには、角田和夫という人間を語る必要があるのだ。

角田和夫の人生と分かち難い5作品を再構成

 会場では、村山氏の筆による長文の立派なステートメント(写真展の声明文)が配られた。そこには、「(写真家の)表現の奥に潜むものに触れることができたとき、初めて作品を鑑賞したことになる。そのためには表現者に根差すものを理解しなければならない。それには自ずと、作者の生い立ちを遡ることになる」とある。

 写真家・角田和夫の生い立ちとはどのようなものか。自身の作品を語る角田氏の言葉の端々にも、人生は作品と分かち難いものとして登場する。「赤面恐怖症で対人関係に悩んだ幼少期」「職場で上司からの激烈ないじめに遭った青年期」「何とか迎えた二十歳の頃に兄から手渡された写真機と暗室作業に救われ、癒やされた日々」「写真家として世界に挑戦する覚悟に至らせた、愛する父の死」・・・。

 今回の写真展は、5つの作品を一度ばらばらにした上で再構成されている。元になった5作品は、人間関係がつらくなり「死んでもいい」と暴力団抗争で荒れる夜の街に飛び込み、ゲイの叔父の協力を得て撮った「土佐深夜日記」。高知県庁の運転手時代に研修制度を利用して滞在したニューヨークに魅せられたことから生まれた「ニューヨーク地下鉄ストーリー」。満州にいた父親の足跡をたどってみたいという思いから生まれた「シベリアへの旅路―我が父への想い」。デ・ラ・サール大学に勤めていた頃に他人ごとではない気持ちになってスラム街の住人を撮った「マニラ深夜日記」。ゴッホの恵まれない人生に対する共感から生まれた「ゴッホ」では、南フランスのアルルで生まれて初めて体験した光を表現するため、初めてデジタルのカラー作品に挑戦した。

5作品からセレクトされた約40点の写真は、音楽作品のように流れを感じさせるべく、入念にレイアウトされている。
5作品からセレクトされた約40点の写真は、音楽作品のように流れを感じさせるべく、入念にレイアウトされている。

 時代も場所もテーマも違い、モノクロームとカラー、フィルムとデジタルが混在する5つの作品から選び出した写真で構成される今回のような写真展は、かなり珍しいという。

 だが、入り口から順番に見ていくと、不統一な印象は驚くほどない。構成を担当した村山氏は、「本気で新しいことをやっています。来場者の動線を意識して、レイアウトには全力を注ぎました。音楽を聴くように鑑賞していただきたい」と語る。配置の妙に加え、見え方に一貫性があるのはプリント時に写真技術的にこだわった作業を行っているからだ。

 この写真展が音楽だとすれば、通奏低音のように一貫して流れているのは、角田和夫の優しい眼差しだ。「ひどく痛めつけられた経験があり弱者の気持ちを分かる人間だからこそ撮れる写真」と村山氏は言う。見る者の心を一瞬でわしづかみにするような“豪”快な力を持ちながら、優しく人間の“哀”を捉えた写真は、まさに『哀糸豪竹』。心にしみ渡らないはずがない。それはいったいどんな写真なのか、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。

心優しき写真家・角田和夫氏。
心優しき写真家・角田和夫氏。

 

写真展「哀糸豪竹」
会期:1月22日(水)~2月9日(日) ※火曜休館
会場:東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8F
リコーイメージングスクエア銀座 ギャラリーA.W.P
開館時間:11:00~19:00(最終日16:00まで) 
入場料:520円

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