“日本のボルドー”ハンパない魅力 知られざる岩手・大迫町のワイン

ぶどう畑

 今、日本ワインが注目されている。海外から輸入したブドウでも日本国内で製造されれば「国産ワイン」と名乗れるが、「日本ワイン」は、日本国内で栽培したブドウを100%使用し、国内で醸造されたワインだ。かつては食用ブドウで出荷できない品質の落ちたものをワイン向けに転用していた時代もあり、フランスやイタリアなど海外のワインと比べて日本ワインは長く、格下とみられていた。

 ところが近年は山梨をはじめ、北海道、長野、山形といったブドウの産地で良質なワイン用のブドウ栽培が行われ、醸造技術の発達もあって「日本ワイン」は、海外のワインコンクールで賞を取るまでに成熟しているのだ。まるで、ラグビー日本代表が、連戦連敗だったワールドカップ(W杯)で、強豪国を破って決勝トーナメントに進出したように―。

早池峰山の麓に建つワイナリー「エーデルワイン」
早池峰山の麓に建つワイナリー「エーデルワイン」

▽岩手100%

 そんな中、岩手県産のブドウを100%使用して岩手で醸造するワイナリーがある。「エーデルワイン」(岩手県花巻市大迫町)だ。エーデルワインは1962(昭和37)年に大迫町と大迫農協の出資で設立。今は市町村合併後の花巻市が50%出資する第三セクター。ちなみに「大迫」は「おおさこ」ではなく「おおはさま」と読む。

エーデルワインの藤舘昌弘社長
エーデルワインの藤舘昌弘社長

 エーデルワインの藤舘昌弘(ふじたて・まさひろ)社長(77)によると、大迫町でブドウを生産するようになったのは、1947(昭和22)年当時の岩手県知事だった国分謙吉氏が、北上山地の早池峰(はやちね)山の麓に位置する大迫町を、地形や気候などフランスのワイン産地ボルドーに似ているとしてブドウ造りを奨励したことにあるという。

③ブドウのアップ

 大迫町は、早池峰山の高山植物ハヤチネウスユキソウとヨーロッパアルプスの花エーデルワイスが似ていることから、オーストリアのベルンドルフ市と友好都市関係となり、「エーデルワイン」の社名もそこから名付けた。藤舘社長は「一文字違いで覚えやすいでしょう」と笑う。

▽テロワール

 国分知事の助言通り、ブドウ作りを始めたところ、気候だけでなく水はけの良い石灰質の土壌なども栽培に適し、大迫町はまさにフランス語で、気候、土壌など「その土地ならでは」を意味する「テロワール」と呼べる条件が整っていた。

花巻市葡萄が丘農業研究所にある樹齢70年の「キャンベル・アーリー」を説明する工藤英夫所長
花巻市葡萄が丘農業研究所にある樹齢70年の「キャンベル・アーリー」を説明する工藤英夫所長

 大迫町では「花巻市葡萄が丘農業研究所」が、農家への栽培指導を行っており、食用のブドウのほか、ワイン用の品種も栽培するようになり、今やシャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、リースリング・リオンといった多様な栽培を手掛けるようになった。

楽しそうに収穫を体験する中学3年生
楽しそうに収穫を体験する中学3年生
収穫したブドウで造ったワインが20歳になったら届く
収穫したブドウで造ったワインが20歳になったら届く

 10月中旬、今年の収穫期に訪れた大迫町では、研究所内の農園で地元の大迫中学3年生26人が収穫体験を行っていた。研究所の工藤英夫所長の指導を受け、体操着姿で「腰が痛い」といいながら中腰になって楽しそうにはさみを入れていた。1998年から続く体験行事で、この日収穫した白ワインの原料リースリング・リオンは、エーデルワインで醸造し、体験した中学生が20歳になった時にワインとなって届けるという。

▽ブドウ農家&社員も

収穫期を迎えたブドウ畑
収穫期を迎えたブドウ畑
生産農家の伊藤富夫さん
生産農家の伊藤富夫さん

 ブドウ生産農家も収穫の真っ盛りを迎えていた。大迫町の伊藤富夫さん(68)は、30アールの畑にリースリング・リオンと赤ワイン用のツヴァイゲルトレーベを栽培している。折から大型台風19号が日本に近づいており、天気を心配しながら「毎年、無事に収穫できるとほっとする」と話した。

エーデルワインの社員でもある藤原欣也さん
エーデルワインの社員でもある藤原欣也さん

 藤原欣也さん(55)は、ブドウ農家でもあり、エーデルワインの製造部部長でもある。父親の時代から44アールの畑で、赤ワイン用のメルローなどを栽培。「これから3~4日かけて家族で一斉に収穫する」とワイナリーの仕事の合間を縫って自分の畑に顔を出した。

 エーデルワインには原料となるブドウのほとんどを、こうした契約農家から買い上げている。シャインマスカットなど食用の高級品種に比べて出荷価格は安いが、ワイン用ブドウを専業にしている農家も34人いるという。

収穫されたブドウの実だけを選別して仕込む
収穫されたブドウの実だけを選別して仕込む
貯蔵されているワインの味を確認する製造部の行川裕治さん
貯蔵されているワインの味を確認する製造部の行川裕治さん

▽「神の雫」

 収穫したブドウは、同じ町内にあるエーデルワインに運ばれ、ブドウの実以外の枝や軸などを除去する仕込みを経て、タンクで発酵させ、出荷するまで樽で貯蔵する。地元岩手産のブドウにこだわり、地形や気候に恵まれた大迫町・エーデルワインのワインは、国内外のコンペティションなどに出品すると数々の賞を獲得し、ワインをテーマにした人気漫画「神の雫(しずく)」で取り上げられた白ワイン「五月長根葡萄園(さつきながねぶどうえん)」は、ヒット商品になった。

エーデルワインの代表的ワイン
エーデルワインの代表的ワイン

 エーデルワインでは、現在39品種のブドウを使い、73種類のワインを製造する、岩手県では代表的なワイナリーになった。中でも友好都市の関係でオーストリアから苗木を譲り受けて栽培しているロースラー、ラタイ、グリューナー・ヴェルトリーナーの3品種で製造したワインは日本でエーデルワインでしか飲むことができないという。

 テイスティングで飲んだ日本ワインコンクール2019で銅賞の「シルバー ロースラー2016」や、フェミナリーズ世界ワインコンクール2019で金賞を受賞した「ゼーレオオハサマ ツヴァイゲルトレーベ樽熟成2016」といった赤ワインは色、香り、飲み口など、いずれもフランスワインに引けを取らないレベルの高さを感じさせた。

▽全国第5位をアピール

「岩手のワインをもっと知ってほしい」と話す上田東一・花巻市長
「岩手のワインをもっと知ってほしい」と話す上田東一・花巻市長

 大迫町を中心に花巻市には現在4つのワイナリーがあり、岩手県全体では13社がワイン造りを手掛けている。「日本ワイン」の生産量は山梨、長野、北海道、山形に次いで全国第5位だ。

 上位にもかかわらず、上田東一・花巻市長は「ワインの専門家に岩手県は生産量で5番目と話すとびっくりされる」と知名度のなさを嘆く。花巻市は「いいワインは、いいブドウから」と、ブドウ生産者支援などワインを核とした産業振興策を掲げ「日本ワインフェスティバル花巻・大迫」を開催するなど知名度アップに取り組んでいる。上田市長は「エーデルワインは、まさに100%岩手、『日本ワインの典型』だ」とアピールしている。

 “日本のボルドー”で造られたワインの香りや味を試してみる価値はありそうだ。

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