難敵ぞろい、東京五輪金メダルへの道 お家芸の重圧と戦う柔道

世界柔道が行われた武道館
世界柔道が行われた武道館

 9年ぶりに東京開催となった柔道の世界選手権は日本武道館で行われ、9月1日に幕を閉じた。会場は柔道の聖地であると同時に、来年の東京五輪会場。日本代表にとっては、いやが上にも「前哨戦」のムードは高まった。男女計14階級で金メダルは男女で2個ずつ。厳しい結果、大健闘、物足りない…など、畳の内外からはさまざまな意見が交錯していると察する。
 一つだけ言えることがある。日本勢にとって、もはや簡単な敵は1人もいないということだ。個人戦の7日間を終え、全日本柔道連盟の金野潤強化委員長は大きく息をつき、つぶやいた。「男女のどの階級も簡単に勝てる相手がいなくなった。いわゆる〝安パイ〟という言葉はなくなった。いよいよ大変な時代に突入した」。誰が言い始めたのか、今も伝わる「お家芸」の看板を背負う日本人選手たちの重圧は年々増す一方である。

■群雄割拠の男子、無名選手に苦戦

 驚いたのは100kg級の1回戦だった。一昨年覇者のウルフ・アロン(了徳寺大職)がコートジボワール選手と対戦。アフリカ選手権の表彰台にも立っていない無名の相手だが、いざ向き合うと2m近い長身で変則的な組み手に苦しめられた。何とかさばいたとはいえ、大事な初戦の入りで苦しんだことが4試合目の準々決勝でスタミナ切れした一因と思われる。柔道と縁遠いはずの国でも、手ごわい選手は探せばごろごろいるのだろう。

 国際柔道連盟(IJF)の加盟国・地域が200の大台に乗り、柔道は世界中で「JUDO」として愛されている。それは1964年東京五輪で男子、92年バルセロナ五輪で女子が正式競技(88年ソウル五輪は公開競技)入りへと尽力した競技発祥国の日本が「来るもの拒まず」の精神で普及した点が大きい。今大会の男子100kg超級決勝で原沢久喜(百五銀行)との死闘を制し、2014年の100kg級に続く2階級制覇を成し遂げたルカシュ・クルパレク(チェコ)が顕著な例だ。強豪国ではないチェコに稽古相手がいないクルパレクは、約5年前から年に2度は来日。知人の紹介で金野委員長が監督を務める日大へ出稽古した。ここで身に付けた寝技で12年ロンドン五輪100kg級では穴井隆将を沈め、勉強した組み手で今回は原沢に根負けしなかった。同じようなケースは少なくない。

 男子はモンゴルや中央アジアなど自国固有の格闘技に柔道を融合させる流れはどんどん進み、専門家でも判別が困難な技を繰り出してくる。「お家芸」だけに少年時代から正統派のスタイルを歩む日本勢は異質のJUDOへの対応が不可欠となり、鍛錬と研究に費やす時間と労力は相当なものである。

■実力接近、紙一重の女子

 一方で女子はさらに難解になってきた。五輪2大会連続で7階級全ての優勝国が異なる群雄割拠の時代から一転、今大会は63kg級から78kg級にかけてフランスが3階級制覇。昨年は金メダル5個と席巻した日本は三つも減らした。しかも2位は4人と惜しいといえば惜しいが、48kg級の渡名喜風南(パーク24)が決勝で2年連続敗れたダリア・ビロディド(ウクライナ)のように各階級の第一人者を崩せなかった。7階級とも男子ほど層は厚くないものの、絶対的女王を中心にメダル圏内の争いは少数精鋭で紙一重になってきた。52kg級で2連覇の阿部詩(日体大)に対するマークは一層厳しくなり、78kg超級で初出場初優勝の素根輝(環太平洋大)は未知数。東京五輪での女子7日間はヒリヒリとした闘いが待ち受ける。

■優勝のみが勝利の宿命

 4年に一度の五輪でしか柔道を見ない人からすれば「日本は強いんでしょう」との感覚だろうが、実情はとんでもない状況になっている。男子の井上康生監督は今大会直後に「例えば世界で3位ですよ。もちろん負けたわけですが、これがどれだけ大変なことか…」と本音を吐露。今大会でいえば原沢は2位と見事に復活し、90kg級では初出場の向翔一郎(ALSOK)が優勝へあと一歩に迫った。

 ただ世界と互角に渡り合える個人競技が少ない日本にとって、柔道に期待されるものは金メダルしかない。井上監督は本音の後、すぐに思い直して意を決した。「そうは言っても、我々は勝たなければいけない。目指すは頂点のみだ」。

 日本にとって柔道は永遠のお家芸であってほしいとの願いは、はかないものなのか。そんな疑問を痛快なまでに解消してくれたのが、男子73kg級の大野将平(旭化成)だった。小細工や駆け引き無用の王道柔道を展開し、襟や袖を持てば大外刈りや内股で海外勢をバンバン投げ飛ばす。当たり前のように涼しい表情で3度目の世界一に君臨した。残り300日を切った東京五輪。前哨戦で収穫と課題を得た日本柔道は、お家芸の誇りに懸けて頂点へと向かってほしい。過酷な時代だからこそ、金メダルの輝きはひときわ増すというものだ。

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