破壊と創造の黙示録 映画『セメントの記憶』

(C)2017 Bidayyat for Audiovisual Arts, BASIS BERLIN Filmproduktion
(C)2017 Bidayyat for Audiovisual Arts, BASIS BERLIN Filmproduktion

 新しいビルの建設現場と、戦争で破壊された街。対極にあるはずの光景が重なり、そこから発せられる音の同質性に驚く。ボイスオーバーの少ない語りと、映像で紡ぐベイルートの今。映画『セメントの記憶』が公開されている。

 シリアからレバノン・ベイルートに亡命したジアード・クルスーム監督が、高層ビルの建築現場で働くシリア人の移民労働者たちを追ったドキュメンタリー。彼らの住居は、陽光が差し込まない建築現場の地下。水たまりの隣に段ボールや使い古しの布団を敷いて寝起きし、朝になるとその「穴」から上階へと“出勤”する。ごう音が鳴り響く現場から見えるのは、真っ青な地中海と澄み渡る空、15年続いた内戦から復興し、高層ビル建築に沸くベイルートの街並みだ。

 だが、シリアから生きるためにやってきた人々の目に映るのは「虚無」。地中海も空の青さも、鉄骨を額縁にした絵画のようだ。建築作業を追った映像の合間に挟まるシリアの戦場の様子。アレッポの廃墟を砲撃する戦車の砲身と、建築現場から伸びるクレーンが重なって見える。

 爆撃でがれきの下敷きになった男性にとって、ドリルの掘削音は死の淵から脱出した時の記憶だ。モノローグは、「口の中はがれきでいっぱいだった…セメントの味が僕の心をむしばんだ」と語る。だから原題は「Taste of Cement(セメントの味)」。転がる鉄材やブロック片の傍らで半身を起こす建築労働者の後ろ姿は、文脈がなければ、戦場で家を失い途方に暮れる人のそれと区別がつかない。平和な国で建築現場を外側から見ても、しない味と聞こえない音がする。
 世界60カ国のさまざまな映画祭で34冠の、映像と音で伝えられる現代の黙示録だ。

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