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歴史を塗り替えた金メダル歓喜のフィリピンに羨望

写真はイメージ

 「彼らはこの日のことを何年も語り継ぐだろう。恐らく永遠に。ヒディリン・ディアスが歴史を塗り替えた日のことを」

 フィリピンの英字紙インクワイアラーは、東京五輪の重量挙げ女子55キロ級で、ヒディリン・ディアス(30)が金メダルを獲得したニュースについて、こんな書き出しで報じた。フィリピンは1924年のパリ五輪に参加して以降、金メダルの獲得は今回が初めてで、まるでその偉業をたたえるかのようだ。

 フィリピン空軍に所属するディアスは、北京五輪から4大会連続の出場で、リオデジャネイロ五輪では銀メダルを獲得しており、五輪では二つ目のメダルとなった。

 フィリピンにとって、五輪のメダルは遠い存在だった。今回の金メダルをのぞけば、これまでに夏季五輪で獲得したのは銀3個、銅7個の計10個。1回の大会で獲得できる数は1個か2個で、2000年のシドニーからはアテネ、北京、ロンドンと4大会連続で一つも獲得できなかった。冬期五輪に至っては、出場はしているもののいまだにメダルはゼロ。だから五輪開催期間中も、フィリピン庶民の関心は薄く、「先進国だけのお祭り騒ぎ」といった冷めた空気すら感じさせる。それが今回の金メダルで一変し、国を動かした。

 東京国際フォーラムで行われた試合でディアスは、トータル224キロの五輪新記録を樹立した。その喜びを、記者会見で爆発させた。

 「私の名前がオリンピックの記録に載ることが信じられない。ここまで到達するには新型コロナの感染拡大などいろいろな困難を乗り切った。それ相応の価値がメダルにはある。私はフィリピン人であることを誇りに思う」

 ディアスの金メダル獲得に伴う報奨金の額は破格だ。フィリピンの規定によると、政府の報奨金は1000万ペソ(約2180万円)。これに加えてフィリピンの資産家や政治家などから提供された分を合わせると、報奨金の総額は少なくとも3550万ペソ(約7740万円)に上る。フィリピンオリンピック委員会からは土地や家なども贈呈される。

 フィリピン南部のミンダナオ島で生まれ、幼い頃は両親の魚売りを手伝ったり、井戸の水くみをしたりする家庭で育った彼女の人生が、180度変わる厚遇と言ってもいい。

 著名人からの祝福のメッセージも相次ぎ、歓喜に沸くフィリピンと対照的なのが、開催国日本だ。金メダルラッシュの裏で、コロナの感染者は増え続け、医療の逼迫(ひっぱく)は収まらない。爆発的な感染拡大への懸念が広がる中、もろ手を挙げて応援できない同調圧力が、特にSNSで広まっているような気がする。だからオリンピック関連の話題をうかつに投稿できない。そんな息苦しい日々が続く中、素直に喜びを表現できるフィリピン人たちを、羨望(せんぼう)のまなざしで見つめている。

ノンフィクションライター 水谷 竹秀

 

(KyodoWeekly8月9日号から転載)

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