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現実を反映していない島の定義

フィリピンが実効支配する南シナ海・南沙諸島のパグアサ島で暮らす民間の政策移民たち(筆者撮影)

 国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が、フィリピンの提訴を受けて、中国による南シナ海のほぼ全域の領有主張を退ける判断(南シナ海判決)を下してから7月でちょうど5年になる。

 フィリピン国内の親米反中派はこの判決を大歓迎した。日本政府も中国の強欲な主張を退けたとして評価しているようだが、判決の内容をあらためて精査すると、日本にとってもやっかいな内容を含んでいる。

 判決は南シナ海の南沙諸島には、国連海洋法条約が島の定義とする「人間の居住又(また)は独自の経済的生活を維持することが可能」な場所は一つもないとした。

 この判断によって、軍と民間の政策移民約150人が住み、フィリピンが実効支配するパグアサ(英名ティトゥ)島は満潮時にも海面下にかろうじて沈まない岩(高潮高地)と同じ扱いとなり、同島を起点とした排他的経済水域(EEZ)は否定された。

 南沙諸島中最大で台湾が実効支配する太平島も「岩」扱いされたことから、台湾は猛反発、判決を受け入れないと表明した。

 一方、中国が判決当時実効支配していたのは岩や浅瀬だけで人が居住できるような島は一つもなかった。判決は関係諸国・地域にとって「痛み分け」の面もあったのだ。

 日本は南シナ海問題については「国際法に従った解決」を関係諸国に呼び掛け続けてきた。しかし、それが南シナ海判決に従うことだとすると、日本も沖ノ鳥島を起点としたEEZを失うことに同意しなければならなくなる。

 日本最南端の領土で東京都・小笠原村に属する沖ノ鳥島には定住者はおらず、独立した経済生活を営むことはほぼ不可能な太平洋の孤島だ。

 中国は昨年7月から「沖ノ鳥島は岩だ」と主張して海洋調査船を同島のEEZ内に何度も向かわせている。

 これに対し、日本政府は沖ノ鳥島はEEZの起点となる「島」だと反論している。中国は南シナ海判決を「受け入れない」としつつ、判決の一部を沖ノ鳥島には当てはめ、日本は南シナ海判決を評価しつつ、沖ノ鳥島に関しては判決内容を無視している。両国とも対応に矛盾が生じている。

 満潮時にもかろうじて先端が海面上に残る岩と、真水の地下水も湧き、実際に人が居住しているパグアサ島や太平島などをひとくくりに岩とみなした南シナ海判決は、少々乱暴かつ踏み込みすぎだった印象が否めない。

 複雑に入り組む南シナ海の領有権問題解決に資するどころか、沖ノ鳥島など世界各地で新たなEEZをめぐる問題を引き起こしかねない内容でもあった。

 世界には「独立した経済生活を維持」できない島はたくさんあり、そういう島をEEZの起点としている例は、ほかにもあるからだ。国連海洋法の島の定義自体が国際社会の現実を反映していないようにも思える。

ジャーナリスト 石山 永一郎

 

(KyodoWeekly8月2日号から転載)

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