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「道士」と「大臣」の街

「ピョラクテシン」の入り口(筆者撮影)

 14年ぶりに韓国で暮らし始めたが、筆者が暮らしているのはソウルの真ん中を流れる漢江の北側の西大門区弘済洞と呼ばれている地域だ。政府総合庁舎や青瓦台(大統領宮邸)の最寄り駅である地下鉄の「慶福宮」駅まで地下鉄で3駅ほどのとても便利なところだが、お世辞にもおしゃれな街とは言えない。

 例えば食事だ。韓国食の安い食堂は山ほどあるが、フレンチどころか、イタリアンのレストランも見当たらない。

 そんな街を歩いていて、路地裏に白、赤、青の3色の旗がはためいているのを発見した。「白」「赤」「青」と言えば、フランスの3色旗ではないか。「おっ、こんなところにフランスレストランがあるのか!」と期待に胸が膨らんだ。しかし、どう見ても旗の色がくすんでいる。おかしい。しかし、これを見過ごすことはできない。旗に引かれて近づいた。

 やはり、レストランではなかった。そこにはハングルで「ピョラクテシン」という看板があり携帯電話の番号が書いてあった。「ピョラク」とはカミナリ(雷)のことだ。「テシン」とは「大臣」ということだ。「カミナリ大臣って何のことだろう?」と思って表側に回って見ると、看板があり、携帯電話の番号と「予約制」とあった。ようやく分かった。

 「カミナリ大臣」とは「急に出世した人」のことだが、ここは占い師であった。弘済洞という街はやたらと占い師が多い。多くの占い師は「〇〇道士」という看板を出している。「道士」(トサ)は占い師のことで、あちこちで「トサニム(道士さま)」が営業をしている。

 なぜ、このあたりに占い師が多いのかというと、ここには「仁旺山」という山があるからだ。「仁旺山」は標高300メートル台のそう高くもない山だが、霊気が強いとされ、昔は山のあちこちの洞窟のようなところで占い師たちが修行をしていた。洞窟に行くと、占いに使ったと思われる生米が落ちていた。

 この山を越えると青瓦台がある。このあたりは都心にとても近いが、不動産価格はソウル市内では安い方だ。昔、家を探しているときに不動産業者にその理由を尋ねたら「所得水準が高くない地域だからね。それに戦争が起きると、北朝鮮が青瓦台に向けて長距離砲などを撃ち込んでくるが、北朝鮮の長距離砲は性能が悪いので仁旺山を越えずにこのあたりに落ちるから地価が安いんだよ」という、本当かうそか分からない説明を受けたことがある。

 実際に、仁旺山頂上付近には北朝鮮の攻撃を迎え撃つためか、高射砲のようなものが設置され、筆者がソウル特派員時代には立ち入り禁止地域だった。

 北朝鮮の金剛山も霊気の強い山とされる。昔、金剛山に取材に行って、韓国人ガイドの人に「一番印象的だったことは?」と尋ねた。1990年代の「苦難の行軍」という食糧難の時代に、韓国の占い師たちの団体を金剛山に案内したことだという。一行は金剛山の霊気を受けて修行しようという趣旨だったらしく、金剛山で生米をまき散らし修行をしたが、北朝鮮当局は「この食糧難の時代になんてことをするのだ」と大騒動になったという話をしてくれた。

 「カミナリ大臣」の部屋は地下にあるようで、天国が待っているのか、地獄が待っているのか分からないが地下へ向かう階段が迷える市民を誘っていた。しかし、占い師の格によって、お礼の金額に大きな差があるという。「お礼」が怖くて、地下へ向けて足を運ぶ勇気はなかった。

ジャーナリスト 平井 久志

 

(KyodoWeekly6月21日号から転載)

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