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ダライ・ラマの建築家 中原一博さんとの出会い

 共同通信外信部の記者として、アジアの多くの地域を精力的に取材した、ジャーナリストの舟越美夏さんが、インド北部ダラムサラで出会った、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の建築家、中原一博さんの作品を紹介する。(編集部)

中原一博さん(野田雅也さん撮影)

敬意

 

 世界の思いがけない場所で、スケールの大きな活動をしている日本人に会うことがある。建築家の中原一博さんはまさにそんな人だ。

 初めて会ったのは2008年5月、インド北部のダラムサラ。ヒマラヤ山脈に続く標高1800メートルほどの山間にあるチベット亡命政府の町である。

 その2カ月ほど前、中国のチベット自治区ラサで政府の政策に対する抗議運動が騒乱に発展し、多数が武力鎮圧で死傷した。この事件に関する情報を得られないかと町を訪れたのだった。

 先輩のアドバイス通りに、日本食レストランで中原さんに会い協力を依頼した。

 それからの数日間、中原さんのチベット語と人脈を頼りに、中国本土から逃げてきた僧侶や子どもたちに会っては話を聞いた。

 その時に人々が中原さんに向ける目に敬意が込められていることに気付いてはいた。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世専属の建築家だと知ったのは、取材を終えてからのことだった。

 中原さんは1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大建築学科に在学中に南アジアを2年間放浪し、インド北部ラダックに滞在してチベット仏教建築を調査した。

 それを基に卒業論文「チベット聖域建築」を執筆。資料集めで東京・五反田にある「ダライ・ラマ代表部事務所」に出入りしたことが縁で、1984年にダライ・ラマ14世と面会した。「ダラムサラに来てくれないか」。14世のこの言葉で翌年、妻と子ども2人を連れて移住し、チベット亡命政府の専属建築家となった。月給は1500ルピー(当時のレートで約3万円相当)だった。

 

シンプル

 

 中原さんは、亡命政府の庁舎、僧院、学校など数多くの作品を手がけた。ダライ・ラマ14世の要望は「できるだけシンプルに。われわれは難民だから装飾はいらない」

 方針は徹底しており、14世が中原さんの設計図を却下したことは3度あった。

 その一つは14世の木製ベッドで、一部をチベット風にしたことが理由だったという。「建築を通して法王(ダライ・ラマ14世)の人柄と教えに近づくことができた」と語る。

 2009年に始まった中国政府に対するチベット人若者らによる焼身抗議を、中原さんはブログで詳細に報告し続け、その記録を「チベットの焼身抗議」(集広舎)として出版した。

 この究極の非暴力の闘いを描いたドキュメンタリー映画「ルンタ」では、案内人として出演している。現在はネパールで、人身売買被害者の救済活動などをしている。

 ×   ×   ×

 中原さんの代表的な作品を紹介したい。

ノルブリンカ・インスティチュート(チベット工芸伝統センター)=中原一博さん提供

 ▼︎ノルブリンカ・インスティチュート(チベット工芸伝統センター)

 チベット自治区ラサには、「ノルブリンカ」と呼ばれるダライ・ラマ法王の離宮がある。亡命政府は、ダラムサラにチベット工芸伝統センターとしてのノルブリンカ建設を計画した。

 「仏像の比例」を設計の基本モジュール(基準となる寸法)とし、全体配置図を千手観音に合わせている。その首頭部分にある本堂の平面は千手観音の曼荼羅(まんだら)から、立面(断面)はその坐像の比例をモジュールとしている。

 

仏像を覆うキャノピー設計図=中原一博さん提供

 ▼︎仏像を覆うキャノピー(庇(ひさし))設計図

 ダライ・ラマ14世は、インド政府がチベット難民を受け入れたことへのお礼に、高さ3メートルの仏像を寄贈した。

 その時に仏像を覆うキャノピーが必要で、設計の国際コンペが行われた。ラサにあるノルブリンカの新宮殿を設計したチベット人、インド人、英国人のそうそうたる建築家3人と、中原さんが指名された。

 選ばれたのは中原さんの作品で、インドの首都ニューデリーにある中原さんの唯一の建築となった。ただ、実際に出来上がったのは設計図よりも簡略化されたという。

 

ルンタ・ハウス(難民自立支援施設)=中原一博さん提供

 ▼ルンタ・ハウス(難民自立支援施設)

 1999年9月建設のこの建物には、興味深いエピソードがある。ダラムサラには、中国政府の統治に抗議するデモを行ったことで拷問・投獄され、釈放後にインドに亡命したチベット人の僧侶や尼僧らがいた。

 彼らを中心とする「グチュスンの会」を中原さんは支援していた。

 ある日、支援活動を新聞で見たという日本人の経営者夫妻が突然、中原さんを訪れ、支援を申し出た。「住まいと事務所、自活のための仕事場を作ってあげたい」と語る中原さんに、経営者は2千万円をポンと寄付してくれたという。

 完成したルンタ・ハウスは元政治犯ら多数のチベット難民に宿泊や食事、自立支援を提供したほか、「グチュスンの会」の活動拠点となり、中国本土で収監されている政治犯リストを作成するほか、収監者の健康状態を把握するなど、重要な役割を果たすようになった。

 

デラドゥン仏塔=中原一博さん提供

 ▼︎デラドゥン仏塔

 インド北部デラドゥンにある仏塔で2005年に完成。高さ60メートルのこの仏塔は、チベット式仏塔としては世界一高い。この仏塔は中空だが、内部は5層で、中央の円形部分には巨大な立体曼荼羅が組み込まれている。

【筆者】

ジャーナリスト

舟越 美夏(ふなこし・みか)

 

(KyodoWeekly6月21日号から転載)

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