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行方分からず、アリババの馬氏 デジタル人民元の邪魔に?

写真はイメージ

 中国の電子商取引最大手アリババグループの創業者で、中国最大の資産家である馬雲(ば・うん)氏の行方は不明のままだ。彼をこぞって報道していた中国マスコミからは完全に消えた。海外マスコミでは、彼が中国国内の政治闘争にからみ過ぎて取り調べされたとの説や、アリババグループが「デジタル人民元」の障がいになっているとの説もささやかれている。 

 

 馬氏は、アリババの定年退職を待たないで、取締役を退任した。2020年10月、中国政府の金融政策を批判した後、公の場所に姿を見せることはなかった。

 それが、今年1月20日、彼は突然、オンライン番組に登場した。全国100人の「郷村教師」に賞を授与した、と中国の地方紙が取り上げた。

 写真で見た彼は健康こそ問題がなさそうであったが、かつて時代の風雲児であった自信のまなざしが消えていた。笑みを浮かべていたものの、心からの笑顔ではないようだ。むしろ心配事があるような、振る舞いであった。その様子から推測すると、2012年に施行された「監視居住法」に基づき、彼が軟禁されているのかも、と感じた。

 考え過ぎかもしれないが実際、筆者の知人の間では、彼は政府部門に調査されたとの説も結構あった。今回、馬氏をオンライン番組に出演させたのは、海外マスコミによる、中国政府批判の報道を封じるためのパフォーマンスだという人もいた。

 海外へいくことも事実上禁止された状態だとも伝えられている。米通信社のブルームバーグも、中国政府は昨年12月初めごろ、馬氏に海外出国の禁止令を出した、と報じている。

 今年3月13日、まず英紙フィナンシャル・タイムズが馬氏の行方を追った。彼が所有する飛行機は中国・杭州にあった。その飛行機の飛行記録によると、昨年10月まで平均3日に1回飛ぶこの飛行機は最近になって飛ぶ頻度はかなり減ったことが分かったという。

 たとえそれが事実だとしても飛行機は飛んでいるが、馬氏が搭乗していたかどうかは確認できない。

 

「目の上のたんこぶ」

 

 今年3月に入ると、彼に不利なことが続々と起きた。

 3月15日にアリババの子会社「中国優視科学有限公司」が開発した「UCブラウザ」について、中国中央テレビの番組で名指しされ、規律違反と批判された。

 「中国優視科学有限公司」は公に謝罪をし、規律違反を徹底的に調査するとの声明を出した。「UCブラウザ」は消えるか、また生き残れるかの危機に陥ったとうわさされた。

 そのうわさ通り、新華社は3月24日、「UCブラウザ」などのプラットフォームは中国国家網信辦(中国国家ネットオフィス)に懲罰された、と報道した。 懲罰の結果はまた公表しなかったが、機能停止、閉鎖、罰金などの懲罰方式が可能だと明言した。

 いずれにしても馬氏にとって有利とは言いがたい状況だ。彼およびアリババグループの影響を排除するため、アリババ傘下の膨大なマスコミ資産を手放すよう、中国政府に迫られたとのうわさも、筆者の知人の間でほぼ同時に出ていた。

 なぜ馬氏およびアリババグループはこれほど〝多難〟な目に遭うのだろうか。

 もちろん彼が、元国家主席の江沢民氏の家族との親しいつながりが背景となり、政治権力闘争に巻き込まれたことはいうまでもないだろう。

 また、馬氏の会社が、中国の金融市場に影響力を持ちすぎたことも要因の一つだと指摘されている。中国の金融市場での存在感が大きくなり過ぎて、人民元デジタル化の支障になり、当局から「目の上のたんこぶ」のような存在に映っていたようだ。

 中国のニュースサイト「新浪網」の報道によると、アリババが運営する「アリペイ」は中国の電子ペイ市場の48・44%を占め、「ウィーチャットペイ」が33・59%を占めているという。

 両方合わせて中国電子ペイの市場を、二つの巨大個人企業にほぼ占められている、といえる。

 そのような中、デジタル人民元は先ほどのような市場状況で加速、推進されようとしている。 3月25日の国際決済銀行創新フォーラムで、中国人民銀行デジタル貨幣研究所トップは、デジタルサービスを加速すべきだと強調した。

 彼は他の会議でも、デジタル人民元はアリペイなどの電子ペイより優れていると力説。それに応えるように3月末にデジタル人民元による新電子ペイの方法は、中国中央銀行にバージョンアップされた。

 中国のデジタル人民元は2014年から研究がスタート。2020年に7600カ所の試験場所で使われ、11億元が取引された実績があった。2021年、中国中央銀行と六つの国有銀行がデジタル人民元の使用を全面的に展開し、申請さえすれば、だれでも使用試験に参加できるようになったとも公表した。

 しかし、中国在住の知り合いに聞くと、彼らは全員、アリペイまたはウィーチャットペイを使っており、デジタル人民元の試験に参加したいという人はいなかった。

 中国は人民元のデジタル化を急ぐ一方、独占された電子ペイ市場に対するいらだちも隠さない。人民元のデジタル化では、アリペイとウィーチャットペイが一番の競争相手だと、ポータルサイト運営の「網易(ネットイーズ)」が報道し、中国国内の世論をつくり始めている。

 馬氏のほかに、ウィーチャットペイの親会社である騰訊控股(テンセント)創業者の馬化騰(ば・かとう)氏は、政府の独占禁止法違反で取り調べを受けているとロイターに報道された。

 アリババとテンセントはいまだに法律違反を名目に、当局から、〝嫌がらせ〟を受けているようだ。中国の電子ペイ市場がほぼ彼らの企業に独占されていることに関係があると、ある中国問題専門家は言った。つまり、デジタル人民元の普及、推進をするにあたり、アリペイおよびウィーチャットペイの存在が邪魔になったのであろう。

 近い将来、デジタル人民元の推進を理由に、電子ペイ市場を返さなければならない、そんな運命が馬雲氏、馬化騰氏に待っているのではないか。

 なぜ中国政府はそんなに急いで人民元のデジタル化に進もうとしているのか。

 国際デジタル貨幣市場の機先を制したいからだ。米国ドルを超えて、世界貨幣覇主の座を狙うために中国はデジタル貨幣に希望を託しているのだ。

 3月23日、中国人民銀行決算総センター、中国人民銀行デジタル貨幣研究所など四つの国営大手は国際銀行間通信協会(SWIFT)と連合して金融ネットサービス会社を設立したと、中国中央銀行は発表した。目的はデジタル人民元を海外での使用および人民元の国際化の基礎と規則をつくることにあった。

 中国政府のデータによると2020年に中国人民元は、国際貿易における決算額は28億4千万元(1元は16・89円)で中国の銀行が対外貿易の代理支払総額の37・5%を占めた。ロシア、トルコなどの国を含めて約29の国は人民元を決算貨幣と認めている。

 中国は、世界で一番早くデジタル貨幣の実用化ができた国を目指している。中国中央銀行は、デジタル貨幣を取引する国際規則づくりに主導する地位を占めるよう積極的に動いている。

 現存の国際貿易システムにおいてドルにとって代わることは不可能であるが、デジタル貨幣領域でアメリカを追い越せるかもしれない。だからあらゆる方法で中国はデジタル人民元の実用化を加速しているのだ。そう考えると、勢力を誇るアリババやテンセントのような企業が、中国金融当局にとって、障がい物になってはならない。

 4月2日、デジタル人民元は国際貿易に取引する条件がそろったと中国人民銀行研究局の王信局長が記者会見で明らかにした。「人民元の国際化を実現する神の道具」と見なされたデジタル人民元の行方は、日本も含めて世界各国は注視すべきだ。

 この原稿を書き終えた直後、中国政府がアリババに巨額の罰金を科したとの報道が飛び込んできた。独占禁止法違反でアリババに過去最高額の182億元(約3千億円)の罰金が科されたのだ。

 これを見ても、中国当局の真の狙いは何なのか、分かるであろう。アリババが独占禁止法違反したとの理由で処罰されたのであれば、中国石油、中国電信、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などをはじめとする多くの「国有独占企業」も対象になるはずだが、いまだにそのような決定は下されていない。

【筆者】

中国ウオッチャー

龍 評(りゅう・ひょう)

 

(KyodoWeekly5月17日号から転載)

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