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検察の上告断念に無念の遺族

検察から上告断念を告げられ、報道陣に答えるハオさん=4月6日(筆者撮影)

 東京・霞が関にある検察庁のビルから、弁護士とともに出てきた黒いジャケット姿のベトナム人男性、レェ・アイン・ハオさん(38)の足取りは重く、目がうつろだった。「検察庁」と彫り込まれた石看板の前にへたり込むように座ると、報道陣に向かって小声で、一言だけ発した。

 「検察は上告しなかったです」

 4月6日午後1時過ぎ、最高裁への上告を断念する検察の方針が分かった。私はハオさんの取材を始めて3年になるが、これほど意気消沈する姿を見たのは初めてだった。

 ハオさんは、2017年3月下旬に殺害された千葉県松戸市立の小学3年生、リンちゃん(当時9歳)の父親である。

 事件は学校の修了式の日に発生した。リンちゃんは登校途中に行方不明になり、その2日後、我孫子市の排水路脇で遺体となって発見された。殺人容疑などで逮捕されたのは、同じ小学校に子どもを通わせる保護者会会長、渋谷恭正被告(49)。子どもを守るべき立場の人間による犯行は、世間を騒がせた。

 18年7月に開かれた一審千葉地裁の公判で、検察は死刑を求刑したが、渋谷被告に対する判決は無期懲役。控訴審では東京高裁が3月23日、一審に引き続き無期懲役を言い渡した。直後の記者会見で、ハオさんは「納得いかない」と、最高裁への上告を望んだ。

 しかし、検察側から告げられたのは「適法な上告理由がみつからない」という、厳しい言葉だった。この結末にハオさんは、がっくりとうなだれ、報道陣を前に深いため息をつくばかり。

 「何の言葉を言ったほうが良いか分からないですね。リンちゃんに対しても報告できない」

 渋谷被告は無罪を主張し、最高裁に上告したが、検察が上告しない場合、二審判決より重くなることはない。ハオさんが望む極刑の道は断たれた。

 「渋谷恭正は残酷なことをして反省もないし、犯行も認めないで上告した。本当に日本の法律は何なのか。殺人犯が逃げられる道を開いている。おかしい」

 ハオさんはこれまで、渋谷被告に極刑を求める署名活動を行い、書面で134万筆を集めた。我孫子市の遺体遺棄現場にはほこらを建て、月命日に通って手を合わせた。妻のグエンさん(34)が子どもを連れてベトナム帰省時には、松戸市の自宅で1人、孤独に耐えた。それらはすべて裁判を闘うためだった。そうした経緯を振り返るように、ハオさんは悔しさをにじませた。

 「4年間必死でやったのに、結局意味がない」

 ベトナムで同様の事件が発生したら犯人が死刑になる可能性にも言及し、こう問い掛けた。

 「結局、『俺はやっていない』と言ったらそれで終わり。日本の法律は不公平じゃないですか? 皆さん答えてほしいです」

 これでは「殺され損」ではないか─。検察庁を後にするハオさんの背中が、そんな声なき声を発しているように聞こえた。

 ノンフィクションライター 水谷 竹秀

 

(KyodoWeekly4月19日号から転載)

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