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虐殺は止めることができないのか

 「これが聞こえるか?」。午後10時半ごろ、ミャンマーに住む友人たちから連絡が来る。カンカンガンガン。携帯電話のアプリを通した通話でも、夜空に向けて人々が金属を打ち鳴らしているのだと分かる。

 2月1日のクーデター後から続いている「悪霊を追い出せ」キャンペーンだ。国軍の武力弾圧がエスカレートして200人以上が殺害され戒厳令が一部地域に敷かれた今も、現地時間に市民は鍋を打ち鳴らし、抗議の意志を示している。「国軍は出て行け」。誰かの叫び声が混じる。

 街中では今、カメラを持ち歩けば治安部隊に狙われてしまう状況だ。それでも市民は、スマホで撮影した写真や動画をネットに投稿する。「フェイク」写真もあるが、大半は兵士らの残虐行為と市民の抵抗の証しである。銃撃を受け民主主義を求めるサイン、3本指を立てたまま死にゆく若い男性。妊娠した女性が撃たれた後に、集団で抗議する妊婦たち。拘束の翌日に遺体で戻ってきた国民民主連盟(NLD)議員。「兵士たちは、笑いながら銃撃している」。そんなコメントが付けられた写真もある。

 エスカレートする弾圧は、事態を掌握できずにいる国軍の焦りに他ならない。だが、市街地で非武装の若者や妊婦を銃殺するのは、兵士といえども並みの神経ではできないはずだ。「デモ参加者は暴徒で敵」と洗脳されているのか、市民に非暴力運動を捨てるよう仕向けて本格的な武力鎮圧の機会を狙っているのか。はたまた戦場のように、何らかの薬物を与えられているのか。

 ロイター通信は3月19日、国際刑事裁判所(ICC)に捜査を委託できないか検討していると、反国軍のミャンマー国連大使が語ったと伝えた。だが、ICCが管轄権を行使するには、国連安全保障理事会の付託が必要だ。国連安保理は、中国とロシアの反対で、クーデターを非難する踏み込んだ声明さえ採択できなかった。

 日本は「国軍とのパイプ」を強調するが、それは本当に存在するのか。事態が悪化するに連れ、そんな疑念が高まりつつある。ジャーナリスト宇崎真氏によると、日本政府は70人の国軍幹部を招待し「親日派」づくりに励んできたが、国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官を「穏健派、改革派」などと評価してきたという。

 3月19日の共同通信ヤンゴン電も、市民の失望を伝えている。国軍幹部らに制裁を発動した米英両国と異なり、日本政府は「強い非難」にとどまっている上に、国軍が外相に任命した人物を「外相」と呼び、ミャンマー市民の間に驚きと落胆が広がった。日本政府の動きが国益を優先した結果だとしたら、あまりにも短絡的だし、「平和の祭典」五輪の開催国としても貧相だ。

 それでも、日本の国会でミャンマー問題が取り上げられる様子を伝えるビルマ語字幕付きの動画は4万回近くシェアされた。「日本、ありがとう」。動画を送ってくれた友人のメッセージを読み、胸が痛んだ。虐殺は今回も、国際社会が見ている中で進んでいる。

ジャーナリスト 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly3月29日号から転載)

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