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「音楽の森」再会にはそれだけで十分だ

 カントリー・ソングライターのジェリー・ジェフ・ウォーカーが、2020年10月にこの世を去った。78歳だった。

 1942年にニューヨークで生を受けたウォーカーは、1970年代にテキサス州オースティンへと移り住む。この頃のカントリー・ミュージックはナッシュビルへ産業全体を集中させ、分業制によって製作したポップソングを次々とチャート・インさせていた時期だったが、ウォーカーはそれに反発。シーンのはぐれものたちとともに「アウトロー・カントリー」と呼ばれるワイルドな音楽スタイルを作り上げ、亡くなるまでに30枚以上のアルバムを発表した。

 そんなウォーカーの代表曲といえば、1968年にリリースされた「ミスター・ボージャングルス (Mr. Bojangles)」だろう。若き日の彼が留置所で出会ったという、年老いたボードビリアンをテーマにしたこのカントリー・ワルツは、その悲しくも温かいヒューマニズムが愛され、歌い継がれてきた。

 とりわけ、アメリカ史上もっとも偉大なエンターテイナーのひとりであるサミー・デイビス・ジュニア (1925~1990) のカバーは、彼を象徴する1曲として知られている。

 この楽曲を聴くたびに、筆者は豊田徹也 (1967~) が2011年に発表した「ミスター・ボージャングル」という短編漫画を思い出す。豊田は寡作な漫画家として知られており、これまで発表した単行本はたった3冊にすぎない。

 にもかかわらず、その評価は今に至るまで一貫して高い。精緻な画力と構成力はもちろんだが、最大の魅力は息遣いまで感じられるようなキャラクター造形だ。心の奥底に「影」を抱えた人々が、導かれるかのように物語の渦中へと足を踏み入れてゆく…そんな作劇が、この人は抜群にうまい。

 豊田の「ミスター・ボージャングル」は原曲のストーリーをオマージュした、ひとりの老人をめぐる物語である。

 これ自体は (珍しく) 佳作止まりと言ってよいが、それ以上に豊田徹也という漫画家と、ウォーカーの楽曲に登場する「ボージャングル氏」のイメージが、筆者には重なって見えた。2005年に傑作「アンダーカレント」を描きあげたのち、「工場で働く」と言い残して漫画界から遠ざかっていった豊田。その後も断続的に活動していたが、ここ数年は新作発表も途絶えており、半ば消息不明状態だった。豊田にとって、描くことは多分に魂をすり減らす作業だったのだろう。

 だからこそ村上春樹の最新作「一人称単数」の装画を豊田徹也が手がけた、というニュースを聞いた時の驚きといったらなかった。凛(りん)とした表紙絵もすてきだが、ぜひページをめくって扉絵を眺めてみてほしい。落ちくぼんだ、憂いをたたえた目でレコードに針を落とす猿。豊田の自画像なのか、心象風景か、それとも単なるユーモアか。答えは分からないけれど、ひとつだけ確かなのは「彼の才能が、何一つ失われていない」ということだろう。そしてきっと、再会にはそれだけで十分なのだ。

 「彼はとても高く跳んでみせたんだ、とても高くね……」(“Mr. Bojangles” より)(敬称略)

(大阪大学文学研究科 音楽学研究室在籍 加藤 賢)

 

(KyodoWeekly2月1日号から転載)

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