国際
政治・経済・国際の解説&分析記事

「本の森」冷たい戦争から熱い平和へ(上・下)

マイケル・マクフォール 著

松島 芳彦 訳

●(上)338ページ

   (下)346ページ

●白水社(上・下とも税別3600円)

 

プーチンが最も恐れた男

 

 外交の内幕ものは最もワクワクさせられる読み物の一つだ。米ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラーの本書の舞台は、「冷たい戦争」の中心だった米国とソ連、それにロシア。語り手は政治学者、オバマ米政権の対ロシア政策立案者、外交官、民主活動家と多彩な顔を持つ人物である。客観的でありながら、一人称の「私」で書かれていることが、国際政治の舞台裏の生々しさをより際立たせ、読む者を離さない。

 政治や外交で強く作用するのは、「個人のファクター」だと著者は言う。冷戦時代の米ソ連関係を抜本的に改善し「リセット」しようとしたのは、ソ連のゴルバチョフ大統領と米国のレーガン大統領であった。民主主義と人権こそが普遍的価値であると信じ、ロシアも共有するべきであると考える著者は、ロシアと米国のリセットを立案し、それはオバマ米大統領と当時のロシア大統領、メドベージェフ氏という若き指導者たちにより進められ大きな成果を達成した。しかし、プーチン大統領がそれを葬った。プーチン氏は民主主義を擁護して大衆に働きかける「リセット」が「自分に対する脅威」であり「米国が体制転換を画策していると本気で信じている」からだ。プーチン氏はリセットの立案者である著者を恐れ、嫌い、「ペルソナ・ノングラータ(好ましからざる人物)」に指定し報復した。

 エピローグ「トランプとプーチン」では、プーチン大統領が、2015年の米大統領選で、民主党候補クリントン氏の当選阻止のためにどんな妨害をしたかが詳細に書かれている。「プーチンがトランプを大統領にしたのではない。米国の有権者が選んだのだ」と断った上で著者は、ロシアが介入したのは、クリントン氏の信用を傷つけ米国の民主的制度を混乱させるためだったと指摘する。トランプ勝利はロシアにも予想外だったが、世界における米国の指導力を減退させ「プーチンに恩恵を与えた」点で、成功だったのだ。

 それにしても、「真っ赤な嘘(うそ)、誤りの報道、偽情報に対処するのは簡単ではない」など、著者がソ連・ロシア社会の非民主主義的な点として指摘したことが、トランプ時代の米国で起きた現象と重なるのは興味深い。民主主義はどんな国においても脆弱(ぜいじゃく)であるという事実を、私たちはトランプ時代に分かりやすい形で目撃した。

 翻訳は、共同通信モスクワ支局長を2度勤め「ゴルバチョフ」(白水社)などの翻訳書がある松島芳彦氏。「KGB出身のプーチンは、大衆の気まぐれで凶暴な本質を強く意識している」など、「訳者あとがき」に書かれた分析もプーチン氏と現代ロシアを理解する助けとなり、興味深い。

 ロシアでは、反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の暗殺未遂と身柄拘束に抗議する大規模なデモが起き、米国ではバイデン大統領が誕生した。米ロ関係の今後を見ていく上でも、必読の書である。

(ジャーナリスト 舟越 美夏)

 

(KyodoWeekly2月15日号から転載)

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