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バイデン政権「短命」の予測 選挙後も分断と漂流続く

 

写真はイメージ

 米大統領選は接戦の末に、民主党のジョー・バイデン前副大統領が共和党の現職ドナルド・トランプ大統領を破り、当選を決めた。コロナ禍での異例の選挙はホワイトハウスこそ民主党が奪還したが、議会上院は過半数に届かず、下院は議席を減らし、トランプ共和党のしぶとさを浮き彫りにした。この選挙で表れた米国の民意を見れば、バイデン政権が「トランプ」という厄介な敵に阻まれ、弱体政権となることは明らかだ。米国の分断と漂流は続き、国際社会は軸を失った最悪の状況に陥る。

 

コロナがなければ再選

 

 政策の争点は突き詰めれば、新型コロナウイルス対策と経済回復のどちらを重視するかというものだった。コロナに感染し入院してもすぐに退院して、大規模集会で経済回復を訴えたトランプ氏と、マスク着用を呼び掛けて遊説でも「密」を徹底的に避けたバイデン氏の水と油のような違いをそのまま反映した。

 米メディアが発表した投票所での出口調査によると、経済よりもコロナ対策を重視すると答えたのは51%、経済重視は42%であり、24万人が死亡したコロナの方が当然ながら米国民の喫緊の課題だった。

 そのコロナ対策ではバイデン氏の方が良いと判断したのは53%であり、トランプ氏の43%に差を付けた。こうした数字から明らかになるのは、新型コロナウイルスの感染症が米国を襲ったことで票がバイデン氏に集まり当選したという事情が浮かぶ。このため、コロナがなければ、米国の地合いは「トランプ再選」だったのだろう、との思いが生じる。

 

強固なトランプ支持層

 

 驚くべきことは、トランプ氏が、7300万超という共和党候補としては過去最高の票を獲得したことだ。これは前回2016年の大統領選より約1千万票多い。コロナ対策の失敗だけではなく国際協調を無視した外交・通商や人種・民族を差別するような言動、自らを批判する報道機関を「フェイクニュース」と決めつける手法で世界を驚かせ続けたトランプ氏だが、それを膨大な数の米国民が拒否していないのだ。

 バイデン氏は約7900万票という大統領選史上最高の票を得たのだが、トランプ氏との票差は総投票数と比べて3・6%。これは1990年代以来、民主党候補が当選した時に共和党候補との票差である9~4%よりも小さい。現職だから本来は勝って当然だと言えばそうなのだが、トランプ氏が集めた票は、膨大な数のトランプ支持者の存在を証明する。

 今回トランプ氏は郊外票や高齢者票をコロナ対策の失政を理由に失い、バイデン氏に敗れた。 しかし、米メディアによると、トランプ氏は前回2016年に比べて、白人女性で2%、黒人男性、黒人女性で4%、中南米系で3%票を上積みしたと報告されている。白人男性票を5%減らしたことでそうした上積みは帳消しとなった。それにしても、女性、黒人、中南米系で票を本当に増やしたとすれば、「女性蔑視、人種・民族差別主義者」というトランプ氏のイメージは崩れる。

 

経済政策の評価

 

 トランプ氏へのこうした評価は経済政策の実績が背景にある。実際コロナが始まる前の米国は、オバマ政権時代の景気刺激策とトランプ政権の大型減税策で成長率は先進国の中でトップだった。日本や欧州が1%前後で推移していたのに対して、米国は2%を超え18年には3%の成長を記録した。これは国際通貨基金(IMF)が発表した米国経済の成長見通しを上回った。

 失業率も50年ぶりの低い水準で、富裕層のみならず中間層の所得も着実に増えている。今年1月にコロナ禍が始まる前まで、大方の予想はトランプ氏の再選であり、その理由は好調な経済だったことが思い起こされる。

 米国の選挙では大きなインパクトを持たないものの、外交での成果もある。中国への強硬姿勢や北米自由貿易協定(NAFTA)の改定、そしてイスラエルとアラブ諸国の正常化合意などは、トランプ嫌いの民主党も評価している。

 

トランプ氏の頑張り

 

 今回の大統領選では、誰に投票するかを投票日の前1カ月以内に決めた人は13%で、1週間前以内は5%だ。そして1カ月前以内に決めた51%、1週間前以内の54%がトランプ氏に投票したという。これはコロナにもかかわらずトランプ氏が展開した遊説の勢い、さらにトランプ陣営の戸別訪問の威力を示したものといえそうだ。

 仮定の話となるが、この猛烈なトランプ氏の追い上げを考えると、あと1週間、あるいは3日間の時間があれば、トランプ氏は再選をもぎ取っていたかもしれない。

 そしてメディアがあれだけ非難したトランプ氏の人格も大きな影響を与えていないようだ。出口調査では大統領に求めるのは「強い指導力」が33%、「良い判断力」24%に続いて「国民統合」は19%である。人格よりも強さが大統領の資質と判断している。

 

バイデン支持の票ではない

 

 こうした事実から読み取るべきは、バイデン氏は支持基盤が限定された弱い大統領になるという見通しだ。だからこそ、トランプ氏は敗北を認めずに抵抗を徹底し、今後の共和党を率いるリーダーとして影響力を行使し続ける決意を持つのだろう。

 バイデン氏の弱さを象徴するのが、有権者は何を目的に投票したのかという調査だ。投票者の中で相手候補を倒すために投票したという人は24%いるのだが、そのうちバイデン氏への投票者が68%を占めている。

 つまり、バイデン氏への投票のうちのかなりが「トランプ憎し」の票であってバイデン氏本人を支持したものではないということだ。この傾向はペンシルべニアなど激戦州はさらに強い。

 ということは、バイデン氏へ票を投じた人々の間で、トランプ氏という「敵」がホワイトハウスから退場するとともに、バイデン氏に対し、急速に関心をなくし、その支持もしぼんでしまう可能性がある。「悪役」の後に登場した大統領としては、ニクソン大統領の後のフォード氏やカーター氏を思い起こすが、彼らも役割を終えた段階で、ホワイトハウスから1期だけで消えていった。

 

包囲されたバイデン氏

 

 バイデン次期大統領を待ち受ける最大の障害は、議会、そして最高裁という三権分立制度の中の二権の抵抗である。バイデン氏が期待した大統領、上院、下院を民主党が握る「トリプル・ブルー(青は民主党の色)」は起こらず、上院は共和党が多数派を維持し、下院は民主党が多数派ながら議席を減らしそうだ。

 民主党の事実上の敗北であり、これは予算や人事の承認権を握る議会が大統領の思惑通りに動かないことを意味する。また最高裁はトランプ氏の強引な任命もあり、保守派6人対リベラル派3人と明らかに劣勢である。

 このため、バイデン氏が掲げる脱炭素社会の実現、富裕層や法人を対象とした増税、最低賃金の引き上げなどの重要政策の実現は難しい。議会を通して何とか実行に移しても、最高裁が違憲判決を下したらその政策は葬り去られる。そもそも先述のような投票行動の分析からして、米国民が脱炭素社会など賛否が分かれるバイデン氏の政策を本当に支持しているとは言えないのではないか。

 もう一つバイデン氏の悩みの種は民主党内の足並みの乱れである。オカシオコルテス下院議員を中心とした左派グループと中道派は、議会選の事実上の敗北の責任の押し付け合いを始めている。

 左派グループは今回顕著となった若者の民主党への投票を自らの功績として「政策や人事で左派の主張を取り入れなければ、次回選挙で若者は背を向ける」と警告し、一方中道派は議会選の敗北は「左派のせいで民主党は社会主義のレッテルを貼られたからだ」と反論している。

 こうした難局の中で誕生するバイデン大統領は、大統領権限でかなりの行動の自由がある外交に活路を見いだすのだろう。バイデン氏は長く上院外交委員長を務め外交を得意とし、優秀な専門家が側近として多数ついている。同盟を重視し、中国との対決は「管理された競争」に移行し、経済制裁・金融制裁も含めて経済安全保障政策を軍事圧力や外交とコーディネートして履行すると期待されている。トランプ時代の予測不能外交との決別は国際社会が望むものだ。

 だが、内政という足場が弱ければ、外交力も衰える。中国、ロシア、イランなどの地政学パワーが基盤の弱いバイデン政権を揺さぶってくるだろう。弱い大統領の誕生とは、国際社会の混乱の深まりに直結してしまう。

 

世論調査は外れたか?

 

 最後に今回も的確性で話題となった世論調査による事前予測について考えてみたい。

 確かに事前の世論調査が示したバイデン氏がトランプ氏に対して全米で10ポイント、激戦州で5~7ポイントもリードしているという予測は、選挙結果と異なった。ただ、これらの数字は調査時点での有権者の判断を示したもので、終盤の猛烈なトランプ氏の追い上げは当然反映していない。

 こうした世論調査の数字を基にさらに精緻に各州の動向を分析した政治専門サイトなどは、10月下旬の段階でバイデン氏とトランプ氏の獲得州をほぼ完全に当てた。激戦州の動向もこれらのサイトの予想通りとなった。こうしたことから、2016年のような当落が予想と反対の結果が出るという屈辱的な失敗は回避できた。

 しかし、世論調査が白人ブルーカラーや中南米系の意向をとらえきれていないという問題は依然残ったままだ。世論調査で正直に思いを答えないという心理の背景には、メディアや世論調査機関などいわゆるエリート体制に対する怒りというものが存在するのかもしれない。これはトランプ支持者の全容が隠れたままである現状をあらためて見せつけた。

 トランプ氏が2024年の大統領選に再出馬するかどうかは分からない。だが、7300万票という過去の共和党政治家が得たことがない支持者を握り、トランプ氏は得意のメディアを駆使する戦術で米政治・社会で影響力を持ち続けるだろう。ホワイトハウスという桎梏(しっこく)から逃れて、より奔放にまた効果的にバイデン氏や民主党を攻撃するはずだ。

 バイデン大統領は、「トランプ」という巨大な敵に阻まれ「短命」という不吉な予測をどう跳ね返すのか、選挙が終わった今からさらに難しい戦いに臨むことになる。

【筆者】

共同通信特別編集委員

杉田 弘毅(すぎた・ひろき)

 

(KyodoWeekly11月23日号から転載)

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