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柴又で迎えた24年目の残暑

柴又駅を行き交う人々に情報提供を呼び掛ける小林賢二さん(筆者撮影)

 残暑が厳しい9月9日の夕暮れ時、京成金町線の柴又駅では、改札を出てくる人々に向かって訴え掛けるマイクの声が響き渡り、BGMに優しいハーモニカの生演奏が流れていた。

 「本日は娘の命日にあたり、皆さま方に情報提供の呼び掛けを行っています。気になる情報などお持ちでしたらぜひ、警察のほうにご一報いただけるようお願い致します」

 声の主は小林賢二さん(74)。ちょうど24年前の同じ日、娘で上智大4年の順子さん=当時(21)=が、この駅の近くにあった自宅で何者かに殺害され、放火された。

 発生直前、自宅玄関前には、不審な男が目撃されていた。年齢は30代後半、身長約160センチで、黄土色っぽいコート姿。警視庁はこの男の似顔絵を公開しているが、放火によって物証が極めて少なかったため、捜査は難航を極め、現在に至るまで犯人は見つかっていない。

 順子さんが、母校の同じゼミの先輩だと知ったのは昨年春先のことだ。東南アジアについて研究するゼミで、担当教授の人間的魅力に引かれて集まった学生たちには、野心家が多かった。私は順子さんと2学年離れていたため、面識はなかったが、同じゼミと聞いて親近感を抱いた。

 さらにその半年後の同年秋には、私が住む都内のマンションに警視庁捜査一課の刑事が突然やって来た。

 「順子さんの事件の捜査をしている。DNAサンプルの提供に協力をお願いしたい」

 聞けば任意というが、断れなさそうだったので協力した。私のところに来た理由は言わなかったが、恐らく、順子さんの後輩だからだろう。それよりも何よりも、事件発生から20年以上が経過してもなお、水面下で捜査を続けているという警察の執念に驚いた。その時の様子をツイッターに投稿すると、「週刊女性」の編集者から連絡が入り、取材をすることになった。

 私は「偶然」をあまり信じないが、こんな短期間に物事が急展開するのは、「必然」という言葉でも説明がつかない、何らかの引力を感じる。

 これまで、順子さんの命日の献花式は、新聞の記事で見掛けるだけだったが、まさか今年は書き手として参加することになるとは思ってもみなかった。

 マイクを手にした賢二さんの傍らには、同じくマイクを持ち、笑顔でピースサインをする順子さんの遺影。それを見つめながら、賢二さんが説明する。

 「順子の米国留学が決まり、皆に壮行会をやってもらった時にカラオケに行った時の写真です。普段の良い表情が出ているので気に入っています」

 しかし留学の夢はかなわず、その当時の遺品が今年夏、警視庁から24年ぶりに賢二さんの元に戻った。

 「毎朝、毎晩、仏壇の前で手を合わせ、明日は必ず犯人が捕まるよと心の中で語り掛けながら、毎日を繰り返しています」

ノンフィクションライター 水谷 竹秀

 

(KyodoWeekly10月19日号から転載)

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