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コロナ禍の影に隠れた尖閣危機 中国の「加大執法力度」戦略

 菅義偉首相は9月25日、中国の習近平国家主席と初の電話会談を行った。日中関係に「共に責任を果たしていきたい」と述べるとともに、中国公船による沖縄県・尖閣諸島周辺への領海侵入を念頭に「東シナ海情勢」への懸念を伝えた。ただ、中国ウオッチャーの龍氏によると、コロナ禍の影に隠れ、尖閣問題が危機的な事態に向かいつつあると警告をする。(編集部)

 

加速する海洋進出

 

 今年の始まりごろまで、日中関係は平和的にさえ見えた。習氏の国賓来日が決まって以来、中国側の日本に関する報道は極めて抑制的になり、日本に対する批判は抑えられた。

 しかし、その静けさと裏腹に尖閣諸島に対し、中国側の動きは激しかった。しかも着々と狙った通りに動いているようだ。

 特に新型コロナウイルス感染拡大問題に対し、中国は他国と比べ、先に乗り越えたとみられている。一方、尖閣をはじめ海洋進出の動きは加速している。 何よりも、この地域の「海」と「空」の航行・飛行の常態化により、尖閣の「島」そのものよりも、「海域」と「空域」を意識した戦略だ。その主権について、どの国・地域よりも先に狙うのが目的となっている。

 いつの間にか、中国側の尖閣諸島に関する言葉が変わった。

 2012年の尖閣紛争が勃発してから、中国側は海域というより、島に固持していた。島の主権を常に主張し、外交部(外務省)も、中国マスコミも、島が「わが国古来の領土」だという文言が目立っていた。

 しかし、中国海警船が尖閣に現れて以来、「釣魚島海域(尖閣島海域)」や「我国釣魚島海域(わが釣魚島領海)」といったような言葉が増え、今年あたりになって、外交部のスポークスマンや政府系マスコミも「我国釣魚島海域(わが釣魚島領海)」と統一されたように多用し、中国政府船の航行も「常態」だと強調し、海域の主権を主張している。

 今年7月6日に中国のスポークスマンの趙立堅氏が記者会見で次のように発言していた。

 「近頃、中国海警船が釣魚島(尖閣諸島)海域で恒例的に巡航するとき、違法的に侵入してきた日本の漁船を駆除した。また日本政府に厳正的な交渉を申し、中国の主権を犯すことは直ちに停止するようにと要求した。釣魚島(尖閣諸島)海域での巡航と法律執行は中国側の古来の権力だ」と。

 巡航の恒例化と日本漁船の駆除、そして島を奪う。これは中国政府の対日政策を実行していく過程で「加大執法力度(少しずつ法律執行の力を増す)」の体現である。

 島を奪うのが難しいから、まずは尖閣海域とその空を支配したい。それは中国海洋戦略の目標とも密接な関係があるからだ。

 中国は海洋強国になるために、“出口”が必要である。この目的からも尖閣海域およびその空は中国にとって極めて重要だ。巡航の「常態化(恒例化)」も主権の誇示もそのうち中国の戦艦などが自由に出入りするための地ならしである。

 尖閣の海域と空域をわがものにしたことで、海洋覇権を取る拠点にすることができる。

 だからコロナ禍で世界諸国が忙殺された隙に、中国は海洋戦略を推進する絶好なチャンスだと判断した。それは尖閣に対して中国がとったその後の行動からもみて取れる。

 今年の4月に習氏が日本に国賓として訪日予定であったが、コロナ禍の影響で延期された。

 そのことで、中国政府は日本に対する遠慮もなくなった。尖閣に対する中国の言動も日増しに激しくなった。

 日本の海上保安庁が公表したデータによると、尖閣の日本側の接続海域で、中国海警の船が111日(3月から8月2日までのデータ)連続航行し、そのうち、武器を搭載したのもあれば、日本領海に侵入したのもある。

 もちろん、空も同じ状況だった。航空自衛隊のスクランブルのほぼ7割は中国軍に対するものであると河野太郎・前防衛相が記者会見で公表したばかりだ。

 香港の国家安全法が強硬通過された後、アメリカをはじめ、日本など価値観が一致した国々が中国を批判し、日本の中国に対する態度も一変した。

 自民党が習氏の来日をやめるようにと糾弾したり、尖閣での日米共同訓練や実効支配措置強化などを提案したりした。また、日本主導で香港の民主を守るようにと欧州連合(EU)と共同声明も出した。

 

怒りを隠す

 

 それに対抗するかのように中国は、尖閣で日本の漁船を追尾したほか、尖閣や沖の鳥島海域で海洋調査をするなど、中国は〝海洋戦略〟を露骨に突き進めている。

 8月に入ったころには、アメリカ側が尖閣を守るために日本を助ける、と態度をはっきりし、河野前防衛相が必要なときには自衛隊も尖閣防衛を手助けするようにと言い出した。

 一連の日中関係に大きな影響を与える出来事は、中国にも衝撃を与え、中国政府系メディアなどにも大きく取り上げられた。中国外交部は表向きは怒りを隠して「尖閣海域で巡航と法律の執行は中国古来の権力」だと繰り返して表明したが、実際は何か大きなやり返し行動をとるかもしれない。

 法律執行の正当性を強調するために日本の漁船を拿捕(だほ)するとか、あるいは中国の大手ポータルサイト「網易(ネットイース)」が報道したように、飛行機を多く飛ばして、日本の自衛隊を疲労させる。

 もちろんアメリカとの争いでそれらのことが本当に実行されるかどうかは微妙であるが、8月に行われた北戴河の内部会議にも影響されるから注目すべきである。

 周知の通り、例年秘密裏に行われた北戴河会議は中国政治闘争の舞台である。今年それが対米外交に失敗した習氏の責任が追及されたといわれていた。習氏が更迭されない代わりに、権力が弱められ、彼が主導した強硬外交も転換された。尖閣に対するやり方も変化されるが、海域や空域に対する巡航「常態化」とその主権を〝侵食〟しつつ、嫌がらせは続けていくだろう。

 一説によると習氏が毛沢東と肩を並べたいあまりに、いつか小さな戦争を起こそうと狙っているという物騒なうわさもある。

 それは南シナ海なのか、台湾あるいは東シナ海、インドになるのかは、アメリカとの関係や、日本の対中姿勢にも左右されていくが、注意しながら備える必要がある。

 いずれにしても、尖閣という小さな島にはこれから見えない大きな危機が満ちあふれていると強調しておきたい。

 8月の下旬、中国外交担当トップの楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員が韓国を訪問し、韓国高官と会談。コロナの状況が安定した環境が整った後、習氏の韓国訪問を早期に実現することで両国が合意した。

 この合意は明らかに日本に対する警告の意味が含まれているとみるべきだ。

 習氏の訪韓が実現すれば、国賓として来日が延期されている日本への見せしめとも受け取れる。そうであるならば、尖閣を中国の領地にする計画も忌憚(きたん)なく進めていくのではないか。日本はあらゆる可能性を想定し、早急に対応策をまとめて準備しなければ危ういだろう。

【筆者】

中国ウオッチャー

龍 評(りゅう・ひょう)

 

(KyodoWeekly10月12日号から転載)

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