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「選挙後」こそが本当の戦いか 長期化する米大統領選の混乱

 トランプ米大統領(共和党、74歳)とバイデン前副大統領(民主党、77歳)が争う大統領選は最終盤に入り、激烈な争いとなっている。マスクをせずに選挙集会を開くなど対策を嫌ったトランプ氏が新型コロナウイルスに感染するサプライズも起き、かつてない波乱の大統領選となった。

 

 11月3日の投票、さらにはその後長期間かかるとされる開票でも混乱が予想される。来年1月20日の大統領の新しい任期が始まる時までに、決着がついているとの確証はない。

 本稿を執筆している10月12日の段階では全米世論調査ではバイデン氏が10ポイント前後リードしている。激戦州に限った調査でもバイデン氏が5ポイント弱のリードだ。世論調査特有の誤差や、2~3パーセントはいるとされる「隠れトランプ」の存在、激戦州の中の激戦区だけが重要となる大統領選の特殊な選挙制度を考えてもトランプ氏劣勢であることは間違いない。

 自宅を持ち、安倍晋三首相(当時)ら外国のリーダーを伴いしばしば訪れているフロリダ州でもトランプ氏は後れを取っている。選挙人29人の大州フロリダを落とせば、トランプ氏の敗北は確定する。

 今年1月以降、コロナの脅威を意図的に軽んじてきたトランプ氏の姿勢や、トランプ氏と同時期に起きたホワイトハウス集団感染は、政権の危機対応の甘さを如実に物語る。コロナ感染で予想された「同情票」も、政権が企図した「コロナを克服した強い大統領」のイメージづくりも思惑通りとはなっていない。

 トランプ氏は退院後も「コロナを恐れるな」と国民に呼びかけているが、米国では800万人が感染し22万人が既に死亡しているのだから、そのメッセージは岩盤支持層の外には通用しないのではないか。3日間という短期間で退院し、まさに命を懸けて選挙戦に臨むトランプ氏だが、一般人は受けられない特別治療を受け、医師団の意向を振り切って退院を強行したことに反トランプ派は怒っている。

 

影響ないサプライズ

 

 リベラル派のギンズバーグ最高裁判事の死亡、トランプ氏の入退院と大型ニュースが相次ぎオクトーバーサプライズ(大統領選の直前に起き選挙結果を変えうる出来事)と称されたが、バイデン氏有利の傾向は変わらず、これらの出来事はサプライズだが、選挙にはとりあえず大きな影響を与えていない。

 しかし、再選されなければ、連邦所得税の税逃れをはじめさまざまな疑惑で訴追の可能性もあるトランプ氏にとって敗北は認められない。国家元首である大統領の地位を維持することでそれらの捜査の対象外となっているからだ。トランプ氏の不振の不動産業立て直しのためにも、大統領の特権を駆使してロシアや中国で有利なビジネスを展開する必要がある。

 こうしたトランプ氏の焦りを知れば、直接対決となった9月29日のテレビ討論でコロナ禍で拡充されることになった郵便投票について、「見たこともない不正が起きる」と反発し、大規模な不正がなかったと確認できるまで平和的な政権移行は約束できないとした発言の意図が分かる。トランプ氏は空席となった最高裁判事にも保守派を就任させることにも執念を燃やしている。

 浮かび上がるのは、投票日の夜から全米で郵便投票とその開票の不正を次々と主張し、トランプ陣営の弁護士グループが各州で選挙無効や再集計の訴訟を提起して法廷闘争に持ち込むシナリオだろう。最高裁まで行けば、勝てるという読みだ。実際ニューヨーク州やオハイオ州では既に郵便投票用紙の大量の発送ミスが報道されている。

 

僅差で負けても「勝利」か

 

 もちろん大差でのバイデン氏勝利となれば、国民はそうしたトランプ氏の策を「悪あがき」とみるし、共和党指導部もさすがにトランプ氏にあきらめるよう説得するのだろうが、その岩盤支持層に崩れが見えない現状だけに、トランプ氏はポスト投票日の戦いに勝機を見いだしたいはずだ。

 筆者は大統領選が法廷闘争に持ち込まれた2000年の「ブッシュ(息子、共和党)対ゴア(民主党)」の戦いを取材し決戦となった連邦最高裁の弁論も傍聴した。保守派優位の最高裁判決を受けて、ゴア氏が12月中旬から始まるクリスマス休暇を前に、「国家の結束」を唱えて敗北を認めたが、トランプ氏がそうした優美な行動に出るとは思えない。

 あの時はフロリダ州の集計が争点だったが、今回は6~10の激戦州だけでなく全米で郵便投票の不正を問う可能性がある。世論調査からみれば、トランプ氏は一般投票ではバイデン氏に負けるだろう。前回2016年の選挙ではトランプ氏はクリントン氏より287万票少ない得票だった。

 今回はバイデン氏にもっと差をつけられそうだ。それでもいくつかの州での最高裁闘争で勝てば選挙人獲得数で逆転が可能となる計算である。トランプ氏は「何カ月も結果が分からないだろう」とも述べている。選挙後こそが本当の戦いとなるのだ。

 

プラウド・ボーイズ

 

 そしてもう一つ、米国民を不安にさせているのが、トランプ氏の「右派白人集団」への呼びかけともみられる発言だ。

 9月29日のテレビ討論ではこんなやりとりがあった。

 司会者「あなたは白人至上主義者、民兵組織を非難しますか」

 トランプ氏「喜んでします。誰のことですか」

 バイデン氏「プラウド・ボーイズのことだ」

 トランプ氏「プラウド・ボーイズ。引き下がり待機せよ」

 問題は、「引き下がり待機せよ」だ。白人警察官による黒人男性死傷事件を契機に全米で起きている人種対立が暴力にエスカレートすれば警察が対処することになる。だからこの発言はプラウド・ボーイズに介入するな、と命じた趣旨と聞き取れる。だが「待機せよ」は結集の呼びかけとも受け取れる。プラウド・ボーイズは大統領から認知を受けたとして大喜びだ。「待機せよ」の文字が入ったTシャツも急きょ全米で販売された。

 何よりも、トランプ氏がプラウド・ボーイズを明確に非難しなかったことが反発を呼んでいる。トランプ氏は人種対立が起きるたびに双方の責任を指摘してきたが、テレビ討論でも「双方にいい人々はいる」と述べた。最近も米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は、人種対立が衝突に発展するケースについて「ほとんどの場合は、白人至上主義者、反政府主義者が引き起こしている」と議会で証言しているのだが、トランプ氏はかたくなに白人至上主義を擁護している。

 プラウド・ボーイズは2016年に創設され、西欧主義をモットーとする白人男性の組織だ。「女性蔑視、イスラム嫌い、反移民、そしてLGBT嫌いの集まり」と称され、「正当な暴力」を唱えて武器も携行し、米国で起きている人種対立の衝突現場にも登場している。ナチスを礼賛するような言動も米メディアは伝えている。

 トランプ氏の「待機せよ」発言から1週間後には、反トランプ派のウィットマー・ミシガン州知事を拉致したり、同州政府を爆発物を使って攻撃したりする計画を進めていた同州の武装組織の合計13人が逮捕された。プラウド・ボーイズとの関係は明らかではないが、ミシガン州は激戦州の一つであり、同知事はトランプ氏の極右組織への呼び掛けが原因だと述べている。

 

Qアノンに数百万人

 

 今年の選挙ではこのほか、「Qアノン」という陰謀論信奉者もトランプ支持派として脚光を浴びている。Qアノンは富豪のソロス氏ら一部の特権グループが世界を支配しているという論を唱えることがその特徴だ。

 2016年の選挙では、クリントン候補が児童買春組織の親玉であるとの突飛な言説がSNSに流れ、それを信じた若者が組織の拠点とされたワシントン郊外のピザ店を訪れ発砲する事件が起きた。この極論は今もQアノンの支持者が共有し、児童買春組織、小児性愛者らの撲滅のために戦っているのがトランプ氏だという論法である。

 また民主党や政府官僚、情報機関が「ディープ・ステート(闇の政府)」をつくり、トランプ氏打倒を画策している、とも主張している。

 Qアノンは、2017年10月のインターネット匿名掲示板への「Q」を名乗る人物の投稿をきっかけに広まった。アノンとは匿名を意味し、Qの投稿内容に共鳴する人々の集団をさす。FBIは、テロの脅威になり得る極右の過激主義と見なして警戒するが、数百万人が共鳴しているといわれる。今年4月にはQアノンの主張に従い、バイデン氏を大量のナイフで殺害しようとした女性がニューヨーク市で逮捕された。

 民主党だけではなく共和党指導部もさすがにQアノンを非難するが、トランプ氏は「国を愛する人々」と好意的だ。

 プラウド・ボーイズやQアノンは、コロナウイルスが猛威を振るう今年を象徴する。ウイルスという見えない脅威が世界を覆い日常の安全が崩れていくはかない時代に、悪魔的な思想や異物を徹底的に排除する行動に引き付けられるのかもしれない。

 同時にトランプ氏がそうした思想を自らの支持基盤にする巧みさがうかがえる。祖国で存在基盤を徐々に失いつつある不満派の白人労働者らを糾合したいトランプ氏にとって、これらの異端組織は役立っている。

 

1月20日の決戦

 

 米国の大統領の任期は来年1月20日の正午から始まるが、法廷外の闘争が長期化した時に何が起こるのか。

 最高裁での決着がつかない場合は、憲法の規定に従い下院が大統領を選ぶことになる。大統領選と一緒に行われる議会選挙では民主党が引き続いて下院を制する見通しだ。となると、新大統領は民主党から選出されるため、バイデン氏が次期大統領になる。そうなれば、トランプ氏はホワイトハウスから退場せざるを得ない。

 だからこそ、トランプ氏は法廷と街頭の双方での闘争で1月20日までに勝つ必要がある。だが、それを実現するには僅差まで追い詰めなければならない。果たして今の劣勢を挽回できるのか。トランプ氏はコロナウイルス感染と回復を「神の恵み」と述べた。これまでもトランプ氏はあらゆるスキャンダルや弾劾裁判を生き延びてきた「史上最も幸運な大統領」である。再選のためにもう一度神は恵みを授けるのだろうか。

【筆者】

共同通信特別編集委員

杉田 弘毅(すぎた・ひろき)

 

(KyodoWeekly10月19日号から転載)

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