国際
政治・経済・国際の解説&分析記事

未解決事件、風化への恐れ

事件発生日には毎年、智子さん=写真=をしのぶうたげが仲間たちによって開催されている

 昨年秋の騒ぎは一体何だったのだろうか。長年取材を続けてきた身としては、落胆というよりはむしろ、憤りに近い感情を覚えた。

 タイ北部のスコータイで2007年、大阪市の川下智子さん(当時27歳)が殺害された未解決事件。タイの警察当局は今年7月下旬、捜査線上に浮上した男性について、DNA型鑑定の結果、事件と無関係であると発表した。同局によると、智子さんの衣服についていた血痕のDNA型を男性の親族らのものと照合したところ、男性のものとは別人だと判明したという。

 旅行中の智子さんは2007年11月25日午後1時すぎ、スコータイにある歴史公園で殺害された。首には刃物で刺された傷が2カ所あり、死因は大動脈を切られたことによる出血性ショックだった。着衣の乱れはなかった。

 デジカメが入ったショルダーバッグがなくなるなどの状況から、地元警察は、物取りの可能性が高いとみて捜査を開始した。しかし、犯人特定につながる有力情報は得られず、発生から10年超経過した昨年秋、事件は急展開した。

 タイのソムサック法相が突然会見を開き、「事件発生時に現場近くにいたタイ人男性が、関与した可能性を示す情報が寄せられた」と明らかにしたのだ。

 男性は当時32歳で、現場から約1キロ離れた養豚場で働いていた。しかし、アルコールや薬物依存で精神的に不安定に陥り、数年前に別の事件に巻き込まれて死亡したという。

 発表から1カ月後、法相はDNA型鑑定の結果を踏まえて「男性が事件に関与したと断定することはできない」と述べ、別の鑑定方法なども参考に捜査を続行すると表明した。

 そして今年7月の発表で、男性は事件に無関係だと確定し、捜査は振り出しに戻った。

 DNA型が一致しなかった結果について、智子さんの父、康明さん(72)は、こう語った。

 「やはり一致しなかったのかという印象です。犯人はまだ見つかっていないので、タイの捜査機関としては引き続き、事件解決に向けて、DNAだけでなく地道な捜査も続けて欲しい」

 昨年秋の時点では、容疑者浮上に日本のメディアも沸き立ち、事件解決に向けた期待が高まった。しかしふたを開けてみれば、精査が不十分だったタイ政府の無責任さが露呈しただけではないのか。そんな疑問に対し、康明さんの答えは実に明快だった。

 「タイ政府から新たな情報が出てくるのは大事なこと。捜査を一生懸命行った上での結果だと考えているので、無責任とは思いません。事件解決に至るまでに、一番恐れているのはやはり風化してしまうことです」

 康明さんはこれまでほぼ毎年、日本からタイの現場まで足を運び、花を手向けてきた。発生から間もなく14年目を迎える今年は、新型コロナの影響でその見通しはまだ立っていない。

ノンフィクションライター 水谷 竹秀

 

(KyodoWeekly9月14日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ