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大手テレビ局放送停止の背景

 フィリピン下院の立法免許委員会は7月10日、大手民放ABS―CBNの放送免許を更新する決議案を否決した。既に同局は5月の免許期限までに下院で更新法案が通らず、放送を中止していたが、この決議で、民放としての存続は難しくなった。

 日本でいえば、誰もが知る東京のキー局が突然放送停止となった以上の事態だ。というのも同局の夕方の看板ニュース番組「TVパトロール」は、テレビの地上波が受信できないようなへき地でも、系列ラジオを通じて音声だけ放送され、影響力は圧倒的だったからだ。ニュースは特に反ドゥテルテ色が強かったわけでもない。

 なぜ、こんな事態になったか。ドゥテルテ大統領は「議会の判断に委ねる」と言い続けてはきたが、ドゥテルテ氏がこの放送局を嫌悪していたという事情が背景にあるのは間違いない。ジャーナリスト団体らは一斉に「言論・表現の自由への弾圧」と猛抗議した。当然の反応だが、この間、明るみに出た同局をめぐるさまざまな問題を知ると、事はそう単純でもない。

 ドゥテルテ氏のABS―CBN嫌いは2016年の大統領選挙から始まっている。同局が選挙報道でドゥテルテ氏のライバル候補に肩入れ気味だったことに加え、ドゥテルテ陣営が料金を支払ったにもかかわらず、選挙CMを放送しなかったのだ。

 これにドゥテルテ氏は、大統領就任後も怒り続けてきた。同局は選挙CMが未放送だったことを認めて最近になって大統領に謝罪、CM代金の返還を申し入れたが、大統領は「いまさらなんだ」と受け取らなかった。

 フィリピンは憲法で外国人によるメディアへの出資や経営を明確に禁じている。この禁止規定は多くの途上国にあり、マスメディアが成熟していない国において外国資本が巨額投資をして新聞や放送局を経営して世論を牛耳ったり、特定の国への印象を操作したりすることを避けるためだ。多少、お目こぼしを受けているのは、日本語紙や中国語紙ぐらいだが、それらも出資・経営はフィリピン人という形をとっている。

 しかし、ABS─CBNは、ユーヘリオ・ロペス会長が1995年1月から今年1月まで、海外旅行の際に米国旅券を利用していたことが発覚。2004年までフィリピンは二重国籍を禁じていたことから、当時社長だったロペス氏は「米国人」でありながら、メディアを経営していたことになる。華やかなテレビ業界に集まってくる若者を長期間、研修生扱いにして正規雇用をせず、労働雇用省から勧告を受けるなど醜聞も多かった。

 ただ、フィリピンから発せられる欧米系メディアの報道としては、ドゥテルテ大統領が毛嫌いしていた放送局の電波を止め、言論弾圧をしていると単純化された報道が主流になる。ある程度、事象を単純化しないと国際ニュースになりにくいという事情は分かるが、現地で日々ニュースを追っている肌感覚とのずれは感じる。

 民主主義は機能しており、海外に伝わっている印象ほどにはドゥテルテ政権は独裁的でもないと思っているからだ。

日刊まにら新聞編集長 石山 永一郎

 

(KyodoWeekly7月27日号から転載)

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