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謎深まるウイルス感染源(終) 4人の女性科学者の接点

 新型コロナウイルスの感染源の究明は道半ばで、真相にたどり着くには膨大な時間がかかるだろう。謎のままにしておいていいわけではない。中国国内で伝えられる報道などに加え、独自のネットワークから得られる情報を基に、中国ウオッチャーの龍氏が検証した。「謎深まるウイルス感染源」の最終回。(編集部)

 

 新型コロナウイルスで武漢が封鎖された直後に、中国人民解放軍女性少将で中国工程院士の陳薇が武漢に行ったことで世を騒がせた。SARS(重症急性呼吸器症候群)に豊富な経験があるだけではなく、中国軍事科学院軍事医学研究所に勤務し、長い間危険なウイルスと関わってきた彼女が行ったので、中国の人々が安堵(あんど)を感じた一方、不安も大きかった。

 不安というのはその直後に陳薇が武漢疾病対策センター(CDC)のP4実験室を接収管理したとうわさされたからである。

 人民解放軍のウイルス専門家がP4実験室所在地の武漢に駆け付け、また重要な役割を果たすと公表されると、中国人民解放軍がP4実験室と協力してウイルスに関係する生物兵器を研究しているのではないか、と人々が連想する。だから今回のコロナ禍も、何か関係があるだろうと多くの人が思った。政府系マスコミは、彼女はそこで治療とワクチン開発に没頭した、と陳薇ばかりを持ち上げた。

 彼女は生物兵器の専門家で、SARSとエボラウイルス研究に長け、数多くの研究成果を成し遂げた人物でもあるのだ。中国政府は国民を安心させるために陳薇少将を武漢に行かせたが、かえって中国人民解放軍とウイルスとの関係を連想させるきっかけとなり、大きな不安を引き起こしたようだ。

 中国語新聞「rfi」網の報道によると、以前から中国人民解放軍が武漢のP4実験室と協力して生物兵器を開発していると疑われていたので、陳薇の行動から見るとそれは単なるうわさではないようだと推測される。

 

生物兵器

 

 中国人民解放軍と、生物兵器および武漢CDCとの関わりは海外で発生した事件からもうかがえる。2019年7月5日、カナダに在住する中国人女性、邱香果が拘留尋問されたとカナダ放送協会(CBC)が伝えた。同じ研究所に勤めていた彼女の夫ら数人も拘留された。

 彼女とその夫はカナダ国立微生物研究所に勤務した、世界でも知名度の高いウイルス専門家であった。特許や産業スパイに関わる疑いだといわれたが、中国の専門家は別の見方を示す。

 邱香果は、中国にウイルスに関する最新研究結果を提供しただけではなく、武漢ウイルス研究所と深い関係があったのではないかとの見立てだ。

 彼女は2017年から頻繁に中国に行き、うち2回が武漢ウイルス研究所に滞在した。1回の滞在は最長14日になった。かつて中国政府は千人計画を打ち出して、破格な高い給料と優遇を設けて、世界規模でハイレベルな人材を囲い込み、最先端の技術を手に入れようと企んだ。

 邱香果はカナダ総督創新賞も取った優れたウイルス専門家で、中国に狙われるのも当然だった。邱香果が新型ウイルス研究に携わり、国家機密に当たる最新研究成果を持ち出したから、カナダの情報部門に拘留されたとも分析されている。

 事件はまだ調査中で、彼女は解雇され、自宅待機しているといわれている。邱香果が中国の生物兵器研究に携わるのであれば、彼女が訪ねた武漢CDCやウイルス研究所と、何らかの関係があったとしても不思議ではない。

 中国科学院武漢ウイルス研究所P4研究室の副主任に石正麗という研究者がいる。彼女は「蝙蝠女侠(コウモリ女)」の異名を持つ中国でコロナウイルス研究の最高レベルだとされる人物である。コウモリが持つコロナウイルスの研究でとても有名な研究者だ。

 彼女が「財新」の取材で「2018年にもコウモリを発生源とするSARSのようなコロナウイルスが種を超えて人類に感染すると予想した」と明確に述べている。石正麗がコウモリのコロナウイルスを研究する論文も、2015年までさかのぼれる。数多くの論文が彼女を実験室のトップに登りつめさせたが、研究所のトップにはなれなかった。

 

人事トラブル?

 

 一方、前号(7月6日号)で言及した王延軼は、研究成果がそれほどではないのに37歳で研究所所長に上り詰めた人物。成功物語の後ろにどろどろした人間関係や、不正がかくれているとの告発もあったという。石正麗は57歳で研究成果が多くて、ウイルス研究の世界でも一目置かれる存在だ。

 一説によると、石正麗が研究所内の人事に対し、大きな不満があったといわれている。それゆえ、武漢ウイルス研究所が感染源ではないかと一時伝えられていたが、背景に研究所の管理態勢のまずさや、研究所内の人事トラブルなどがあったとも推測されていた。

 今回のパンデミック(世界的大流行)に関連し、中国で有名になった4人の女性の科学者を紹介した。今後、ウイルス発生源の国際調査が実施されれば、必ず事情を聴かれる人物ばかりだ。

 コロナウイルスと中国軍との関係も注意すべきである。前述のように、もし中国人民解放軍が生物兵器を研究し、その延長線から何らかの事故でウイルスが世間に漏れたとしたならば、日本も安全保障上、看過できない。日本も米国も真剣に真相を追究すべきだろう。(敬称略)

【筆者】

中国ウオッチャー

龍 評(りゅう・ひょう)

 

(KyodoWeekly7月20日号から転載)

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