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謎深まるウイルス感染源② コロナ「零号患者」を探せ

 中国・武漢発の新型コロナウイルスについて米、中国の争いは白熱化している。争点の一つはウイルスがどこから発生したかだ。ウイルスは人工的に作られたのではないかと多くの専門家が指摘する中、人為的に漏れたとの説も否定されていない。前回(6月1日号)に続き、ウイルスの発生源を検討したい。 

 

 前回は、武漢疾病対策センター(CDC、以下センター)から漏れた可能性を分析したが、実際はもう一つの可能性が存在している。武漢ウイルス研究所から漏れたのではないだろうか、との説である。

 武漢ウイルス研究所は1956年に設立、中国で一番古い生物研究機構で、中国科学院の直属部門だ。武漢市から約30キロ離れたところに位置する。

 新型コロナの感染拡大に伴い、そこは一気に注目された。2月10日から、「新型ウイルスで消えた零号患者」というタイトルの文章がさまざまなサイトに転載され、多くの人々に衝撃を与えた。

 零号患者というのは初めて新型コロナウイルスに感染し、そして他人に感染させ、世間にウイルスを広めた人を指す言葉である。この零号患者のことが分かれば、新型コロナがいかに伝染し、潜伏期など予防に重要な情報を多く得ることができる。

 しかし、それまでに中国の専門家や医者たちの論文や政府が公表した情報からは零号患者に関することは一切なかった。

 その文章によると、武漢の医者たちが公表された研究データを分析してみると、最初に感染されたとみられる患者のなかで「武漢華南海鮮卸売市場」とは関係がなかった人々も含まれていたという。

 だから感染源は他にも存在すると推測できる。海鮮市場が中国政府の公認した感染源だとすれば、そこで売られていた動物が、訪れた人間に移された可能性もある。人間に移されたとした場合、その人間はどこで感染したのか、調べる必要もある。

 人々がパンデミック(世界的大流行)で慌てふためく中、唐突にも中国科学技術部社会科学技術司長・呉遠彬氏が2月中旬の記者会見で「実験室で新型コロナウイルスなどハイレベルウイルス実験室生物を安全的にガバナンスする指導意見」を発表し、特にウイルスの管理を重要視し、生物の安全を確保しようと強調した。

 その後、武漢ウイルス研究所と新型コロナの零号患者の関係が浮上した。

 研究所にはP4研究室があって、重要研究課題はコロナウイルスだったので、そこで研究に携わる院生の1人が零号患者ではないかと疑われた。

 その院生の名前は黄燕鈴氏で、2012年に推薦で中国科学院武漢ウイルス研究所に入った。彼女は実験でウイルスに感染し、死亡したが、火葬場で他人に感染させ、武漢でのパンデミックにつながったという推論だった。

 状況証拠の一つは、武漢ウイルス研究所のホームページに掲載したメンバー紹介リストにあった。ほかの院生は写真と名前、研究論文などが掲載されていたのに黄氏の名前はあるものの、写真や研究論文など個人情報はなにもなかった。武漢ウイルス研究所のP4研究室は2015年1月31日に竣工(しゅんこう)したが、黄氏の名前が掲載されたホームページもその年に作られた。

 つまり2015年の時点で彼女はまだ、武漢ウイルス研究所に所属していたのであった。彼女が零号患者だと中国政府系のマスコミで報道されたにもかかわらず、本人は一向に出て説明してこなかった。彼女の指導教官や武漢ウイルス研究所のトップが出てきて公に否定しただけであった。初めはその1人である武漢ウイルス研究所長・王延軼氏が新京報の取材に対して、黄氏の存在すら否定したのだ。後日の取材では、彼女が卒業生だと認め、今はほかの都市で勤めていると話した。

 しかし、政府系マスコミからネット空間まで、全国各地の人々は彼女を探したが、一切姿を確認することはできなかった。通信アプリ「微信(ウェイシン)で、彼女の名をかたった誰かが「自分は元気だ」といっただけだった。

 武漢ウイルス研究所がホームページで公式声明を出し、彼女の零号患者説を否認した。彼女の名前で出した声明ではない。今回のような重大事では、本人に中央テレビ(CCTV)などで釈明させるのが中国政府のいつものやり方であり、一番の説得力を持つにもかかわらずである。黄氏は現れず、生死も不明なままだ。武漢ウイルス研究所の疑惑が深まることにつながりかねない。

 中国政府が躍起になって、黄氏が零号患者だという世論を沈静化させた直後に、1人の告発者が現れた。

 2月17日に、陳全嬌と名乗る人が短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」で「武漢ウイルス研究所長の王延軼氏は常に実験動物を華南海鮮市場に販売し、また実験室の管理もおろそかで新型ウイルスを漏らした張本人だ」と書いたという。告発者の陳氏は同研究所の研究員で、真実を証明するために身分証番号も書いたのであった。

 しかしその後、陳氏は武漢ウイルス研究所の公式ホームページで自分は告発しなかったと声明を公表しただけで声が消えた。マスコミが取材を申し入れても返事がなく、真相は闇に包まれたままだ。

 今回のウイルスの発生源が武漢疾病対策センターであるのか、それとも武漢ウイルス研究所であるのかは、明確には分からない。ただ、実験動物の違法売買や実験室管理の不備はあったとみられ、徹底した国際的な調査が求められるだろう。

【筆者】

中国ウオッチャー

龍 評(りゅう・ひょう)

 

(KyodoWeekly7月6日号から転載)

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