
ベトナムの国旗で彩られた店内で、食料品について説明するティエンさん(筆者撮影)
先日、三重県の実家に帰省した折、近くの商店街に異国情緒漂う食材店がオープンしているのを見つけた。店のガラス窓には日本とベトナムの国旗がデザインされ、日本語でこう書かれていた。
「ベトナム・アジア食品」
中に入ってみると、コーヒーやココナツジュースなどベトナム産の食料品が陳列棚に並んでいた。レジで店番をしていた長い黒髪のベトナム人女性、ティエンさん(21歳)が、おぼつかない日本語で案内してくれた。
「日本にはないアヒルやベトナムの魚もあります。店には日本のお客さんもよく来て、フォー(ベトナムの米粉麺)やお菓子を買ってくれます」
ライチの産地として知られるベトナム北部ハイズオン省からティエンさんが来日したのは2018年春。東京の日本語学校で1年間勉強をした後、ベトナム人の夫が住む三重県へ移り住んだという。
そして、昨年冬にこの食材店を始めた。夫はすでに日本に7年住み、製造関係の会社で働く技能実習生の通訳、管理などの業務を行っているという。ティエンさんが語る。
「この辺はベトナム人多いです。皆、実習生ばかりです」
以前は駅前にフィリピンパブがあった私の故郷にも、在日ベトナム人社会の広がりが垣間見られるようになった。
法務省によると、在日外国人の人数は19年6月末現在、最も多いのが中国で約78万人。続いて韓国約45万人、ベトナム約37万人、フィリピン約27万人の順だ。
上位3カ国はこれまで、中国、韓国、フィリピンの順が長らく続いてきた。ところが05年3月に実施された法務省令改正による入国規制に伴い、パブで働くフィリピン人女性が激減し、それに反比例するかのようにベトナム人技能実習生と留学生が急増し、フィリピンとベトナムの順番が入れ替わった。
この在日ベトナム人の大半が、実習生なのだ。技能実習制度は1993年、日本で学んだ技能や知識を途上国に持ち帰る技術移転を目的に始まった。が、「技術移転」とは名ばかりで、実際は人手不足に悩む中小零細企業への労働力として駆り出されているのが実情だ。
制度開始時は中国人が大半を占めていたが、ここ近年の経済成長に伴う賃金上昇の影響で、ベトナムやミャンマーなどの新興国が新たな送り出し国として台頭してきた。
ティエンさんもそんな時代の流れに沿うように「日本で働きたい」と、海を渡った。
「日本は好きです。空港きれい。食べ物もおいしく、安全。ベトナムも食べ物おいしいけど、あんまりきれいじゃない。ずっと日本に住みたい」
ティエンさんとしばらく話し込んだ後、ライチのジュースを買おうとすると、「あげます!」とにっこり笑われた。
ノンフィクションライター 水谷 竹秀
(KyodoWeekly6月29日号から転載)