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コロナ禍の「棄民」たち

「給付金には期待していない」と語った路上生活者の男性(右)(筆者撮影)

 新型コロナウイルスの緊急経済対策として、国が1人当たり一律10万円を配る「特別定額給付金」の申請者が殺到している。

 オンラインの申請は早い自治体で、5月1日から始まっているが、そんな最中にSNSを通して、ロックダウン(都市封鎖)中のフィリピンから1通のメッセージが届いた。

 「知人から聞いたんだけど、日本政府からコロナの支援でお金が出るって本当ですか?」

 末尾には、給付金についての英文記事まで添付され、給付条件の文面には赤字でアンダーラインが引いてある。

 送り主は、長年付き合いのあるフィリピン人女性(25)。彼女の内縁の夫は、首都マニラ郊外で困窮生活を送る日本人男性(57)である。本誌でも昨年夏に一度、紹介した。

 その彼女が目を輝かせんばかりに連絡をしてきたのだ。ただ、「彼はフィリピンにいるから対象外だと思う」と、こちらの回答を予想しているかのように付け加えた。

 総務省によると、給付の対象者は「基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている者」。海外には現在、日本人が約140万人在住し、フィリピンに限定すれば、約1万7千人に上る。特に長期滞在者は、国民健康保険の掛け捨てを避けるため、(日本の)住民票を抜いている人が少なくない。つまり現行の規定だと、海外在留邦人は実質、対象外になる。

 自民党の議員グループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」(代表・青山繁晴参院議員)が在留邦人への支給を求める提言案をまとめるなどの動きに出ているが、実現は不透明だ。

 一方、私が取材で通っている東京・山谷地域。3月半ばごろから炊き出しの中止が相次ぎ、路上生活者たちの胃袋を直撃している。さらに、日々の憩いの場として利用してきた公共施設の娯楽室が閉鎖されたため、行き場所も失った。

 給付金について総務省は、ホームレスやネットカフェ難民も「住民登録している市区町村での給付申請が可能」としている。山谷界隈(かいわい)にいる路上生活者は約140人(都の資料による)に上るが、この条件が実態に即しているとは言い難い。

 派遣労働で食いつなぐ路上生活者の男性(61)は、炊き出しが減ったため、夜は1袋50円のパンの耳だけでしのぐ日もあるという。給付金について聞いてみると、こうばっさり言われた。

 「住民票を持っていないから申請できない。身分証明書もないから住民登録もできない。だから給付金には期待していない」

 フィリピンの困窮邦人も山谷の路上生活者も、自己責任の問題はさておき、社会的弱者という点では共通している。

 そんな彼らを取材して見えてくるのは、緊急事態宣言下における政府の支援の網の目にも引っかからない、「棄民」とも言える現実だった。

ノンフィクションライター 水谷 竹秀

 

(KyodoWeekly5月25日号から転載)

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