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マスク2枚よりSMS

 「首相から私にメッセージが来た」。ベトナムに住む日本人の友人が3月下旬、フェイスブックに投稿した。ベトナムのグエン・スアン・フック首相が、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を通じメッセージを送ってきたという。

 人と会うのを制限してください。マスクを着用しせっけんで手洗いをし、栄養を取り体を鍛えてください。人民一人一人がウイルスまん延と戦う戦士です―。共産党一党独裁の国の最高指導者が、「一人一人にお願い」し協力を訴える手法は、市民にかなりのインパクトを与えたようだ。「マスク2枚よりも効果高い」とこの友人は断言した。

 ベトナムは、2000年代、重症急性呼吸器症候群(SARS)や家きんを媒介して感染する鳥インフルエンザウイルス(H5N1)の感染拡大に苦しんだ。新型コロナウイルスでは死者は出ていないが、首相がSMSを送り、首都ハノイなどの都市を4月1日からロックダウン(都市封鎖)したのも、苦い経験に基づいた決断なのだろう。

 私が2004年2月、通信社の特派員としてハノイに着任した時、ベトナムは鳥インフルエンザの渦中にあった。日本語でも理解できない医学用語に連日泣かされたが、忘れられないのは米国人の医療機関関係者が漏らした言葉である。「すごい争奪戦だ」。米疾病予防管理センター(CDC)など各国関係機関や製薬会社が、ウイルスサンプルを手に入れようと争っているという。ワクチンや抗ウイルス薬などの研究や開発で莫大(ばくだい)な金につながるのだ。

 ベトナム人の苦しみをよそに、理不尽な話だ。そう感じたのは私だけではなかった。2007年にジュネーブで開かれた世界保健機関(WHO)の会議で、鳥インフルエンザに苦しんでいたタイの保健相が発言した。「われわれの国のウイルスサンプルは、ワクチンや抗ウイルス薬の開発のために裕福な国に送られる。しかし、途上国にはワクチンや薬は十分に届かず、貧しい国の人間は死に、裕福な国の人間は生き残る。不平等だ」。発言はアジアや中東の途上国から支持された。

 新型コロナウイルスは先進国で猛威を奮っているが、背後で渦巻くものは相変わらずのようである。この機会に名を上げ国や企業からの研究資金を確保したいと、発表される研究論文も爆発的な数だという。「誰も予測しなかった事態」に直面しながらも、人間の欲はとどまるところを知らない。

 ところで、コロナの拡大とともに気になるのは、世界各地で偏見や差別が拡大していることだ。日本では医療従事者や感染者が所属している組織などが標的になった。

 科学ジャーナリストで北星学園大学教授の大島寿美子氏は「差別や偏見の裏には不安がある。日本では国や自治体が感染状況をどう評価し施策に反映させているのかに関するデータが積極的に公開されていない。科学的データや意志決定プロセスについての情報を提供し、不安を緩和していくことが重要だ」と指摘している。

 ジャーナリスト 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly4月27日号から転載)

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