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山谷の旅館もコロナに悲鳴

外国人観光客を対象にしたモダンな造りのカンガルーホテル(筆者撮影)

 「1泊2300円 長期滞在者募集 今だけ部屋数限定」

 こんな看板の写真が3月末、ツイッターにアップされていた。場所は、東京山谷地域にある簡易宿泊所「カンガルーホテル」の入り口である。

 コンクリート打ちっ放しのモダンなこのホテルは、山谷には珍しく、主にインバウンド(訪日外国人観光客)を対象に営業を続けてきた。1泊の料金が3600円と、他の宿泊所の相場(約2~3千円)より少し高いが、しゃれた内装も手伝って、常に宿泊客で埋まっていた。多くは中国、韓国、タイなどアジア出身だが、欧米出身も少なくない。そのホテルが通常料金の4割引きで売り出していた写真を見て、状況を察した。

 実はつい1カ月ほど前、新型コロナウイルス感染拡大の影響について、山谷の街を取材していた。ちょうど日本政府が中国、韓国からの入国者に対する規制を表明した直後のことで、同ホテルの経営者、小菅文雄さん(54)は、宿泊客の激減に青息吐息を漏らしていた。そこで料金を3割引きにしたのだが、写真の看板の料金はさらに値引きされていた。小菅さんにその意図を電話で尋ねてみると、こう返ってきた。

 「コロナの影響で周りの簡易宿泊所が軒並み値下げしたので、苦肉の策でした」

 台東区と荒川区にまたがる広さ約1・65平方キロメートルの山谷には現在、簡易宿泊所約130軒がひしめく。このうち、カンガルーホテルのように外国人や日本の若者を対象にする宿泊所は2割。残りの宿泊所には、生活保護受給者を中心に約4千人が暮らしているが、コロナの影響は「全く受けていない」と口をそろえ、山谷の旅館業界で明暗が分かれていた。

 山谷は戦後長らく、「日雇い労働者の街」と呼ばれた。東京オリンピックが開かれた1964年のピーク時には、約220軒の宿泊所に労働者約1万5千人が暮らしていた。ところが、オイルショックやバブル崩壊によって労働需要が急減し、建設現場では作業の機械化も進んだため、労働者が減少した。高齢化も相まって、労働者たちは生活保護を受給し、山谷はいつしか「福祉の街」と呼ばれるようになった。そんな中で、サッカーの日韓ワールドカップが開かれた2002年、一部の宿泊所が外国人の誘致に乗り出し、山谷の街に新しい風が吹いた。そして08年にカンガルーホテルがスタートし、その流れが加速した。

 ここ数年は、2020年東京五輪・パラリンピックに備え、新たなホテルも建設された。しかし、コロナの猛威でその勢いは衰えた。カンガルーホテルもここにきて初めて、生活保護受給者を受け入れた。小菅さんがその胸中を語る。

 「自分たちがどう経営していきたいかを考えるより、こういう状態に追い込まれてしまい、来る者は拒めなくなりました」

ノンフィクションライター 水谷 竹秀 

 

(KyodoWeekly4月13日号から転載)

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