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中国赤十字会の不可解さ 新型肺炎への対応の影で

 中国湖北省武漢市の海鮮市場が発生源とみられる、新型肺炎の対応の遅れが指摘されている中国。日本をはじめ各国・地域から送られる支援物資の分配の窓口になっている「中国赤十字会」で、不可解な行動が相次いでいるという。現地の事情に詳しい、中国ウオッチャーの龍氏に報告してもらった。(編集部)

 

 新型肺炎がなかなか落ち着かない中、国営通信の新華社が中国湖北省赤十字会の張欽・専任副会長が免職されたと公表した。

 このほかにも幹部数人が処分されたと伝えた。誰が処分されたのか、数人で実際は何人なのか、いずれも詳細が分かっていない。

 肝心な免職や処分理由についても、支援物資の分配に問題があり、責任をとらされ、失職したというだけだった。

 2月10日に中国赤十字会は通達を出し、湖北赤十字会に今回の件を総括した上で、改革するように要請した。いったい何があったのか。

 少し時計の針を戻す。1月20日、中国政府は新型コロナウイルスによる肺炎が発生したことをようやく認め、支援の輪も広げた。その後、武漢の赤十字会の不可解な行為が徐々に中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」で暴かれた。

 微博では「多くのマスクなど支援物資を武漢に届けたが、手数料を払わないと受け取れないと赤十字会に言われた」「支援物資を送ったが着払いのために赤十字会が受け取りを拒否した」など。

 ついには、国内マスコミも加わり、赤十字会の不正を報道するようになった。山東省の農家が赤十字会を介して武漢に無償提供した野菜が、市場で販売されたというのだ。値段は市販より安かったというが、支援物資が販売されたことは人々の怒りを買った。

 その後、赤十字会はそのような支援物資を受けたことはないと否認している。販売を手配した会社が、販売の代金は運送費などを引いて、全部赤十字会に寄贈すると弁明した。

 追い打ちをかけるように、医療現場にマスクがないのに政権幹部たち用のマスクを優先して配ったとか、新型肺炎の治療病院ではないのに、美容整形病院に必要以上のマスクを配ったとか、次々と不可解な事実が露見し始めた。

 また武漢の赤十字会の倉庫に多くの支援物資があるのに、新型肺炎の治療現場には防護服などが足りない、などとの悲鳴がSNS上で飛び交う。あまりにひどすぎて、民衆の武漢赤十字会への批判も激しくなる一方であった。

 

不正の温床?

 

 それで中国赤十字会はやっと動きだして調査チームを派遣し、関係する幹部たちを処分し始めた。しかし、冒頭の処分内容が公表された後、中国赤十字会に不利な報道は多く削除された。

 政府は中国赤十字会のイメージ回復に躍起になったが、一連の非を改める姿勢は見られず、支援物資に関する配分方法などの透明性が低い。

 その上、すべての支援物資は必ず赤十字会を経由して配るべきだと通達した。不信感をもった人々が直接、病院に寄贈しようとしたが、道路が封鎖されたケースもあったという。闇が闇に隠され、中国赤十字会は習近平政権を吹き飛ばす〝爆弾〟になりつつある。

 そもそも、中国の赤十字会は不正の温床であることは今回だけのことではない。2008年四川大地震のとき、1千万元を超えた大金で、たった千個のテントを買っただけだった。その破格の値段が疑問視されたが、もみ消された。

 11年に郭美美という女性が中国赤十字の身分を語り、SNSでまるで「赤十字わが金庫」のように並はずれた富を見せびらかしたので批判された。その後人々の怒りを鎮めるために彼女は投獄されたが、中国赤十字会は元のまま安泰なのだ。今回はさすがにごまかせないと判断したのか、赤十字会から調査チームが武漢に派遣され、人々から怒りを買った職員らを素早く処分した。しかし責任を問われたのは数人の地方幹部だけで、肝心な体制の問題や総会管理の不透明さには一切触れられていなかった。

 

何かのサイン

 

 よく調べると背景がわかった。中国赤十字総会の名誉会長は、現政権のナンバー8王岐山(おう・きざん)中国国家副主席である。中国赤十字総会のホームページを開くとまず出てきたのが習近平国家主席の巨大写真で、次に見えたのは王岐山副主席と国際赤十字のペーター・マウラー総裁との会見写真だ。

 中国の赤十字会は国際機構の一部というより、中国政府の組織だとうかがえる。だから国際慣例も中国赤十字会には通用せず、存在感も薄い。

 外国のように中国の道端などで赤十字会の募金活動を見かけたことがない上に、災害などのときに役割を果たすどころか、マイナス面が露見している。

 今回と同様に災害などがあるごとに国内外から莫大(ばくだい)な募金が集まるが、その行方ははっきりとしていない。

 最新の報道によると、募金は地方政府に納めた説まで出ている。そもそも中国の赤十字会は官僚組織で赤十字会の精神を守るより、政府の指示に従うのが仕事である。だから疫病などの緊急状況になると、ぼろぼろと問題が起きている。

 そのような状況が、習政権にダメージを与えることも不思議ではない。今回、中国国営のマスコミでも一時、赤十字会の闇を暴く報道をしたのも何かのサインかもしれない。

 周知の通り、王岐山氏は習近平氏の盟友である。一時的とはいえ、王氏が代表となっている赤十字会が批判の的にされたのは、習政権の反対派の攻撃だとみられている。

 それと関連するかのように、習氏が新型肺炎の対応の遅れで、問責されたとのうわさも流れてきた。同時にネット上で「習氏は辞任すべきだ」と呼びかけるメッセージも多数書き込まれた。

 代表的なのは、清華大の許章潤(きょ・しょうじゅん)・教授(停職処分中)などの一連の知識人だ。また北京大と清華大の教授や著名作家50人も実名で中国人民大会に陳情し、言論の自由を強く要望した。

 以上のメッセージはSNSを利用して中国人の間で幅広く伝わり、共有された。いまだに賛同者が増え続けているという。

 あわてて習氏が北京市内の現場を視察したのも人々の怒りを鎮めるためであっただろう。冒頭の赤十字会の総括と改革もその一環であった。

 赤十字会の救援物資分配の不正問題は氷山の一角にすぎない。日本も多大な援助を提供したが、募金と物資が本当に必要者に届けられたかどうか、その行方も注目しなければならない。新型肺炎の感染に直面し、中国政府の対応には多くの問題が生じている。情報操作はもちろんのこと、死者の数など情報を隠すことや、人権を無視した地域封鎖、医療施設と人員の不足などだ。問題が山積し、うまく対処しないと、社会動乱になりかねない。

【筆者】

中国ウオッチャー

龍 評(りゅう・ひょう)

 

(KyodoWeekly2月24日号から転載)

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