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ゆるやかな移民の国での紛争

 東京から飛行機で太平洋を渡り10時間以上も飛び、北米に着いたのに、アジアか中東の国に降り立ったような錯覚に陥った。カナダは移民の国だとは知っていたが、西海岸のバンクーバーや最大都市トロントは、予想以上に多様な民族や宗教が共存していた。

 アジア各地からの顔とすれ違い、連れ立って歩く若者たちからはアラビア語の会話が聞こえ、現地に住む白人の友人たちはどこのエチオピア料理店がおいしいかを話題にする。「異なる民族間の結婚も多いのよ」とイタリア系カナダ人の友人は誇らしげに言う。

 もちろん、差別や偏見、不平などはこの社会からも消えていない。野党新民主党の党首は、鮮やかな色のターバンを巻いたインド系で、カナダ初の白人以外の党首として話題になったが、差別的な言葉を投げ掛けられる経験もした。

 ケベック州は、ターバンやヒジャブなど宗教的なシンボルの着用を禁じる法案を可決し、物議を醸した。先住民を取り巻く社会環境も厳しい。それでも隣の米国や、はたまた日本に比べれば、言語や宗教、肌の色などが「異なること」に起因する緊張感や憎悪ははるかに小さいと感じる。

 そのカナダが、米国と中国という火花を散らす二つの異なる大国の間で難しい立場に置かれている。米国はカナダにとって最も緊密な同盟国だが、中国もカナダにとって今や第2の貿易相手国だ。

 発端は2018年12月、カナダ当局が米政府の要請を受け、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)幹部を逮捕したことだ。中国政府は、元外交官ら2人のカナダ人を拘束して報復した。

 米中貿易戦争のとばっちりは高等教育の現場に及んでいる。カナダでは、留学生の学費は地元の学生のそれよりも大幅に高く、大学運営に欠かせない収入源だ。名門トロント大学の場合、中国人留学生は全留学生の3分の2を占めるという。

 米格付け会社ムーディーズは、中国政府がカナダ留学の奨励をやめるようなことがあれば、大手の大学は財政危機に直面する可能性があるとの見方を発表した。学生の引き揚げはなかったが、貿易戦争で中国が外貨規制を強化し、学費が高いカナダへの留学希望者は減少したという。

 その一方で、中国当局による教育現場への影響力を懸念する声が高まっている。カナダの情報機関元職員は地元メディアに、中国政府はカナダの大学への影響力を強め、あらゆる反対派の声を消そうとしている、と述べた。

 約1年前にトロント大学の学生会長にチベット系カナダ人の学生が選ばれた時、彼女の会員制交流サイト(SNS)のアカウントに脅迫や誹謗(ひぼう)中傷の多数のコメントが書き込まれ、さらに会長辞任を求め、1万人以上が署名する騒動があった。その背景には、チベット系学生が反中活動をしていると断定した中国当局の指示があった可能性が高いと、この元職員はみている。

 カナダ第2の都市モントリオールの大学で1月中旬に開かれた中国に関する研究会では、複数のカナダ人学生が「授業で中国共産党の政策を批判できない雰囲気が大学にある。学術研究の場としておかしいのではないか」と訴え、中国に遠慮する大学を批判した。トロント在住の中国人研究者は論文で「中国政府の利益を声高に主張する留学生が増えればカナダ社会にあつれきを起こす可能性がある」との見方を示した。

ジャーナリスト 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly2月17日号から転載)

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