中東情勢に関しては、原油の輸入を同地域に頼る日本も敏感だが、アジアの国の中ではフィリピンも相当に敏感だ。最大の理由は中東地域への出稼ぎ者が多いためだ。
フィリピン政府統計などによると、家政婦や建設労働者を中心にサウジアラビアに93万8千人、アラブ首長国連邦(UAE)に54万1千人、クウェートに27万6千人のフィリピン人がいる。
イランがイラクの米軍基地をミサイル攻撃した翌日の1月9日、マニラの新聞の1面トップはすべて中東情勢ニュースで埋まった。
イラクにも6千人以上のフィリピン人がいるため、国軍はドゥテルテ大統領の指示で、急きょ2個大隊をイラクに派遣し、同胞を救出すると発表した。だが、その後、ややトーンダウンし、2個大隊は1個大隊以下に、それも非武装で送ることになった。
イラクへの出稼ぎ者はヨルダンなどから陸路で渡り、米軍基地や民間軍事会社で働いている者が多い。危険地ゆえに高給を得ており、簡単には帰りたがらない人が大半だったようで、1週間内にイラクから帰国した人はわずか14人。フィリピン政府はややはしごを外された格好になっている。
気候風土も文化も違う中東の出稼ぎ者はさまざまなストレスを抱えながら働いていると聞く。それでも出稼ぎ者数が減る様子がないのは、少なくとも国内よりは高い報酬が得られるからだ。
出稼ぎ者のほか、長期の移民、国際結婚による移住者などを含めたフィリピン人海外居住者から本国への送金額は、2018年で338億ドルに上っている。これは国内総生産(GDP)に含まれないが、GDP比で1割以上の額となっており、貧困層の生活を支えている。
将来、日本に影響も
フィリピンでは長らく海外出稼ぎ者は外貨を稼ぐ「国の英雄」といわれてきたが、本人たちは国に残した子どもへの悪影響や夫婦関係の破綻などさまざまな問題を抱えてきた。
中東への出稼ぎ者の中でも多い家政婦の月給は300~500ドルといわれる。一方、経済成長が続くフィリピンの国内賃金は徐々に上がっており、最低賃金でも月給は250ドルほどになっている。
このまま成長と賃金上昇が続けば、あと10~20年後には海外出稼ぎ者たちが急減する時代が来るような気がしている。
新在留資格「特定技能」を創設し、介護分野などでのフィリピン人の受け入れ拡大しようとしている日本も例外ではない。近未来には日本の思惑が大きく外れる可能性もあるのではないかと思っている。
日刊まにら新聞編集長 石山 永一郎
(KyodoWeekly1月27日号から転載)