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できすぎた偶然

修復したほこらの前で、線香を手に祈りを捧げるハオさん=11月3日(筆者撮影)

 「台風の影響で我孫子のほこらがどこかに移動したみたいです」

 今年10月下旬、そんなメールが私の元に届いた。送り主は、ベトナム人男性のレェ・アイン・ハオさん(37歳)。2017年3月24日、千葉県松戸市の路上で連れ去られ、殺害されたレェ・ティ・ニャット・リンちゃん(当時9歳)の父親である。

 リンちゃんは当時、松戸市立六実(むつみ)第二小学校に通う小学3年生で、その日は修了式だった。登校途中に行方が分からなくなり、同県我孫子市北新田の排水路脇で遺体となって発見された。

 その後、千葉県警捜査本部は殺人、強制わいせつ致死などの容疑で、六実駅前のマンションに住む自称不動産賃貸業、渋谷恭正容疑者(当時46歳)を逮捕した。リンちゃんと同じ学校の保護者会「二小会」の会長を務め、毎朝、通学路に立って見守り活動を行っていた。

 子どもを守るべき社会的立場とは裏腹な凶悪さに、事件は世間の耳目を集めた。

 起訴された渋谷被告は18年7月、千葉地裁で無期懲役の判決を下された。極刑を求めるハオさん、渋谷被告はともに控訴し、現在、東京高裁で審理が続いている。

 私は事件発生から間もなく、六実に通って取材を続け、ハオさんの思いに耳を傾けてきた。そのハオさんから届いたメールによると、関東地方を直撃した台風19号の影響で、我孫子市の遺体発見現場に安置されたほこらが、消えてしまったというのだ。

 ほこらはハオさんが六実の自宅でこしらえ、雨の中、自転車で現場まで運んだ。リンちゃんの好きなピンク色に塗られたそのほこらには、遺影やぬいぐるみ、色とりどりの花々が飾られ、ハオさんは月命日になると、献花をし、祈りを捧げている。

 メディアの囲み取材もその際に行われることが多く、ハオさんにとってほこらは、リンちゃんの魂が祀(まつ)られた大切な社(やしろ)なのだ。

 メールを受け取った私は、ハオさんが仕事ですぐに動けなかったため、代わりに現場へ向かった。到着するとやはり、ほこらがすっぽりなくなっていた。隣の和み地蔵などはかろうじて残っていたが、ほこらは強烈な風雨に流されてしまったようだ。周囲を歩いて探したが、それらしき物は見当たらない。

 私はハオさんに電話で報告をした。すると間もなく、1台の四輪駆動車が現場にやってきた。何事かと思って見ていると、作業着姿の男性2人がドアを開けた荷台部分に、ピンク色のあのほこらが入っていたのだ。

 度肝を抜かれた私が2人に話し掛けると、我孫子市道路課の職員だと名乗り、ここまでわざわざ運んでくれたのだという。

 「市がゴミ清掃を委託していた土木業者が、ここから1キロほど先の場所に積み上がったゴミの山からほこらを見つけたんです」

 そう解説をしてくれたが、あまりの偶然に私は、呆然(ぼうぜん)とその場に立ち尽くしていた。

ノンフィクションライター 水谷 竹秀

 

(KyodoWeekly12月23日号から転載)

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