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アンコール遺跡をのむ大木

 カンボジア観光の目玉で、世界遺産に登録されているアンコール遺跡群は、ハイシーズンを迎えている。遺跡群の町シエムレアプも、例年なら東京・渋谷の交差点よりも混み合う。覚悟の上だったが、予想しなかった町の様相に驚いた。目抜き通りにはホテルやレストランがひしめくが「営業中止」が目に付くのだ。

 「今年は観光客が全然来ないんだよね」。観光業に携わるカンボジア人の友人が嘆く。近隣のベトナムなどが観光ビザ免除を続けているのに、カンボジアは到着時に空港で取得できる観光ビザでも30ドル(約3300円)。さらに遺跡群の入場料に1日37ドル払う。中国人観光客は減っていないが、1泊だけの滞在が多く、お金を落としてくれない。

 ため息をつく地元業者には悪いが、私としては空いてる方がありがたい。アンコール王朝が築いた遺跡群を数百年かけて侵食している巨木の姿は何度見ても飽きない。好きなだけ時間をかけて巡ることができた。

 遺跡群から200キロほど西に車で走ると、タイ国境の町パイリンに到着する。かつてはポル・ポト派の本拠地だったこの地には現在、カジノとホテルが立ち並ぶ。ギラギラと金色に光る建物から数百メートル離れた簡素な民家で11月中旬、93歳で死去したポル・ポト派ナンバー2、ヌオン・チアの百箇日供養が行われた。

 ポル・ポト派幹部を裁くためにカンボジアと国連が設置した特別法廷の捜査判事に2007年、自宅で逮捕され、首都プノンペンの拘置所で12年余りを過ごしたが、体調を崩し移送された病院で8月4日に死去したのだ。

 供養には妻やきょうだい、娘、孫ら50人ほどが、黄色のけさをまとった7人の僧侶を迎えた。黒いサングラスをずらして相手を見据えるヌオン・チアの遺影は、白やピンクの花に囲まれている。「私が死んでも泣いてはならない」。死去する直前、ヌオン・チアが家族に言い渡したという。

 供養が終わって僧侶が引き上げ、会食が始まった。10代から20代の十数人の孫たちがにぎやかにスマホで写真を撮り合っている。辞去する私に気付くと、誰もが礼儀正しくあいさつを返してくれた。親子間の愛情と絆、仏教の供養、消費社会。ヌオン・チアは、かつて自分たちの政策として厳しく否定したものに囲まれて、この世を去った。

 彼の死により、特別法廷で裁かれる被告は、88歳の元国家元首キュー・サムファンのみとなった。ポル・ポト派の中では地位が高くなかった彼の審議は複雑ではなく、判事や検事の間にはリラックスした空気が流れているらしい。

 約1週間後の11月下旬。プノンペンで、ポル・ポト政権時代の犠牲者らを追悼するミュージカルが上演された。舞台では、雄大なメコン川を思わせる音楽に、米軍の空爆やポル・ポト時代の歴史的映像と個人の記憶をたどる詩的な映像が絡み合う。

 「特別法廷は支持するが、裁判では真実は明らかにならない。次世代に貢献するのは人々の記憶だ」。カンヌ映画祭での受賞歴もあるリティ・パン監督が、担当した映像について静かにそう語った。

 

(KyodoWeekly12月2日号から転載)

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