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ハードロックカフェが消えた後

 大学時代、東京の六本木にオープンしたアメリカンレストラン「ハードロックカフェ」のネオンサインを見た時は興奮した。有名ミュージシャンが立ち寄ったり、彼らの楽器が飾ってあったりすることで有名だったそのカフェは、バブル経済の狂乱に満ちた街でわくわくするような光を放ち、物資的豊かさを象徴しているように見えた。

 そのハードロックカフェが2017年、ミャンマーのヤンゴンにオープンしたと知った時は本当に驚いた。その前年にアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が政権の座に着いたばかり。ミャンマーは「最後のフロンティア」として各国のビジネス界から熱い注目を集めていた。

 きらびやかな商業施設、道路を渋滞させる車の数、スマートフォン。軍政時代にはなかったものが怒濤(どとう)のように流入していた。ハードロックカフェもそのスピードに乗ったのだろうか。あまりの速さに、何か居心地の悪さを感じた。

 ヤンゴンのハードロックカフェは今年になって閉店したようだ。経済改革がうまく進まない上に、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題で、欧米の旅行客が大幅に減少したことが影響したのだろうか。理由は分からなかった。

 ミャンマー国軍が、「名誉毀損(きそん)」を武器に、僧侶や市民、記者らを刑事告訴するケースが増えたというニュースを聞くようになったのは、カフェ閉店が知られるようになった頃である。 告訴はソーシャルメディアや報道で国軍を批判したことが、名誉毀損罪に当たるとするケースが大半だ。9月にも、中部マンダレーのある僧侶が、過激な仏教団体「マバタ」に献金した軍大佐を地元紙で批判、また別の僧侶が「国軍は自分たちの利益しか考えていない」とソーシャルメディアで批判して、名誉毀損で刑事告訴された。今年1月から9月30日までに告訴されたのは、報道関係者、僧侶を含む市民50人以上に上るという。

 実はNLD政権も政府批判をした市民を告訴して、人権団体などから批判されている。NLDが「国の安定のため根拠のない批判をすべきではない」などと釈明しているのに対し、国軍の狙いは来年の選挙に向け、国軍に有利な現行憲法の一部改正を求めている民主化勢力を抑え込み、軍の力を誇示することにあるようだ。

 NLD政権が中国国境付近の武装少数民族との和平を進められないことも、存在感をアピールしたい国軍には好都合だ。現在中断している水力発電ダムの建設を再開させたい中国政府も、国軍が力を増大させることを望んでいるだろう。

 告訴された僧侶たちは「批判はやめない」と意気盛んだ。だが、地元ジャーナリストは「批判すれば名誉毀損で刑務所行きという国軍のメッセージが浸透しつつある。市民は軍政時代のように沈黙し始めた」と話し、言論の自由の萎縮を危惧する。

 ハードロックカフェの長年のモットーは「すべての人に敬意を持って接する」らしい。閉店する前に、政府と国軍の幹部を一度は招待してほしかった。

ジャーナリスト 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly10月28日号から転載)

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