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引退したアリババ創業者馬氏の涙 中国で進む民営企業の国有化

 9月10日、中国の電子商取引(EC)最大手アリババグループ(アリババ)の創業者、馬雲(ば・うん)会長が引退したことを正式表明した。この日は、アリババ設立20周年、馬氏の55歳の誕生日でもあった。記念イベントで馬氏は何度も声を震わせ、会社に対する未練の情を述べた。今回の退任は馬氏とって不本意なものだったのではないか。その背景を探ってみた。

 

 退任にあたっての馬氏の談話が注目された。

 「私はまだ若いのだ。またいろいろ違う世間で好きなようにがんばりたい」

 「世界は美しい。チャンスも多い。私はにぎやかさが好きだ。だからこんな若いのに(会社から)離れるなんてつらい。『江湖(世間)』を変えたい。青山不改、緑水長流(青い山の場所は移すことができない。緑の水が永遠に流れていく=中国語で志を変えないで、いつかまた会いましょうとの意味)」

 通常、中国での定年は65歳で、馬氏はまだ55歳。アリババは民営企業であり、定年に縛られないのが普通であろう。だから、馬氏の引退が早すぎる、と多くの人が感じた。

 

圧力

 

 ちょうど1年前、彼は電撃的に引退を宣言した。表明前に馬氏は、アリババの一角で、世界最大のスマートフォン決済「アリペイ」について、中国政府に「いつでも差し上げる用意がある」などと発言していたが、その真意は分からなかった。

 今年に入り、馬氏の発言の背景が、中国の知人からもたらされた情報で明らかになった。知人によると、中国の国務院資産監督管理委員会の幹部が6月、馬氏と面談し、アリババと国有企業の連携を促した、という。

 この事実関係については「中国央企(中央企業=中華人民共和国の国有企業のうち、中央政府の管理監督を受ける企業)新聞網」の報道もあり、知人の話は間違いない。

 つまり、中国政府がアリババを、管理下に収めようと圧力をかけ続けていたのではないか、と推測される。

 退任宣言も彼のささやかな抵抗の意思表示であった。馬氏が引退を公表したのは2018年9月10日。11月26日の「人民日報」では、馬氏が共産党員であることをわざわざ公表していた。つまり「逃げられないぞ」という警告であった。

 今年9月の引退後、人民日報公式ネット「人民網」に、ある評論が掲載された。「アリババの成功は個人のリーダーシップではない」と力説し、公に馬氏の個人的な成功を否定するような内容だった。 

 それだけではない。9月21日の中国地方政府の公式サイト「浙江在綫」に気になる報道が出た。杭州市政府は100人の幹部をアリババをはじめ100社の民営企業に派遣するという。これは50年前のように「公私合営(中国で資本主義から社会主義への過渡的経済制度としてとられた国家資本主義の高級形態)」の始まり、と見られている。

 従って、馬氏の退任は突然のできごとではなかったことが理解できよう。それは、国務院資産監督管理委員会の幹部が馬氏とわざわざ面談したことを見れば分かるだろう。

 面談の際の報道を見ると、「央企プラスインターネット」や「混改」などの言葉が目につく。「混改」とは「混合所有制改革」の略で、15年に中国政府が押し出した新しい国有企業改革の政策である。

 その狙いは中国国有企業と民営企業資本の再分配だとみられる。つまり活力のある民営企業は政府企業と統合させ、老化した政府企業に活力を与える。政策は16年に本格化し、中国政府が着実に推進している。

 中国政府が、私有制をなくそうといううわさが流れ、不動産業界をはじめ、中国民営企業家たちの怪死事件や資産の海外移転事件も増えた。

 「央企プラスインターネット」は国有企業「混改」政策モデルの一つで、中央直属企業が民営ネット企業との強い連携を通して、人工知能(AI)やビッグデータなどの分野で世界一の企業を目指すという。もちろん世界一になったのは政府企業で、民営企業はノウハウだけを出せばよいとの形だ。 

 アリババはその政策を実行する、格好な標的になったようだ。18年5月、中国政府はアリペイを取り上げ、アリババのネット賃貸業務も管理下においた。

 馬氏は圧力を受け続けていたのだろう。彼は15年のダボス会議で「中国政府とは結婚しない」と発言し、それ以前の13年には「絶対に中国政府とビジネスをしないのだ」と公言していたにもかかわらず…。

 馬氏が退任させられた原因はもう一つある。彼の退任後、一つのリストが秘密裏に流れてきた。なんとアリババが14年に米国で株式上場したときに掲載された株主のリストだ。

 筆頭株主とみられるのは、江沢民元国家主席の息子、ほかに温家宝元首相の息子、劉雲山・元党政治局常務委員の息子らで、すべて世間に名前が知られた、紅二代(共産党革命に参加した高級幹部の子弟)ばかりだ。

 もちろん株主名簿に実名は記載されていないが、詳細に分析すれば、全部彼らが要職に就いている会社名で、容易に想像がつく。

 馬氏の退任直後にこれが流出された狙いはたった一つで、彼は「江沢民派」の人だから退任させられたのだということだ。 人々が知らないうちに中国民営企業の国有化が着実に進められていることは、中国経済が計画経済に回帰していることを意味する。中国民営企業のトップたちは、馬氏のような「退任」に追い込まれるのではないか、と戦々恐々としている。

(中国ウオッチャー 龍 評)

 

(KyodoWeekly10月28日号から転載)

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