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壊れてしまった〝ツートラック〟 最悪の日韓関係の出口探る

 「戦後最悪」といわれる日韓関係。共同通信ソウル支局長などを経験し、韓国関連の著書も多い、ジャーナリストの平井久志氏に、なぜ、ここまで日韓関係がこじれてしまったのか、改善への糸口はどこにあるのかなどを分析してもらった。(編集部)

 

 日韓関係が最悪である。しかも、底が見えない。どこまで悪くなるのか見通せない。そんな中で気になるのは韓国人の「対日意識」「対日感情」の在り方だ。

 韓国では「反日感情」が強いといわれる。筆者は、1980年代前半に韓国語習得のため留学、その後の3回の特派員生活などで、韓国で通算10年以上生活してきた。

 だが、韓国で日本人であることで不愉快な思いをしたり、被害を被ったりした記憶はあまりない。むしろ、外国人だからと優遇を受けたことはある。

 一度、ソウルの大学街である新村の居酒屋で、日本から来た在日韓国人の友人と酒を飲んでいた時、ガールフレンドと一緒にいた韓国人の若者に「ここは学生街だ、大きな声で日本語をしゃべるな」とからまれたことがあった。

 この時も、逆にこの若者と議論をして、結果的には一緒に酒を飲むことになった。近くにいた高齢の韓国人男性が、われわれと一緒に酒を飲んでいた韓国人の若者に「少しは気骨のある奴だと思ったのに、情けない」と捨てぜりふを残し、店を出て行ったのが記憶に残っているぐらいだ。

 筆者の80年代以降の経験では、韓国の人たちは従軍慰安婦や元徴用工、竹島(韓国名・独島)問題などでは日本を厳しく批判する。

だが、現在の状況は別だ。日本のビールを「おいしい」と言って飲み、観光旅行で日本に行って「日本人は親切だ」という。いわば、歴史認識での「反日」と、現代日本に対する「親日」が一つの人格の中で共存している人が多いという感じを持っている。個々の韓国人の中で歴史問題とその他の問題が「ツートラック」で区分、共有しているように感じた。

 安倍政権は7月4日、半導体関連物資3品目への輸出規制強化をした。日本政府は安全保障上の措置で、元徴用工問題とは関係ないとしているが、元徴用工問題への事実上の対抗措置であることは安倍晋三首相の発言などを見れば明らかだ。

 この措置は韓国には衝撃だったようにみえる。半導体は韓国の輸出を支える重要産業で、韓国の脆弱(ぜいじゃく)な素材・部品産業という弱点を突くものだった。

 今回の措置は、韓国にとっては「歴史問題」ではなく、現在の韓国経済の弱点を突いた攻撃というとらえ方が広まり、日本製品不買運動や日本旅行自粛という動きが一気に強まった。歴史問題とその他の問題を切り分ける「ツートラック」が壊れてしまった。

 さらに日本政府は8月2日、韓国を「ホワイト国(優遇対象国)」から除外する方針を閣議決定した。韓国側は、この「ホワイト国外し」は、日本が韓国を「友好国」ではないと判断した措置と受け止め、激しく反発した。

 文在寅大統領は同日午後の閣議で「無謀な決定」と日本を厳しく批判した。「加害者である日本が居直り(※筆者は韓国語の『賊反荷杖』を『盗人たけだけしい』と訳すのはやや行き過ぎで、居直りぐらいではないかと思う)、むしろ大声を上げるという状況は決して座視しない」とし「だが、われわれは再び、日本に負けることはない」と言い切った。

 文大統領は「現在の挑戦を機会と捉え、新たな経済飛躍の契機とすれば、日本に十分勝つことができる」と国民に訴えた。韓国では、こうした大統領の言葉を「克日」の訴えととらえた。

 

興味深い反応

 

 文在寅政権は素材・部品分野での日本依存を脱却し、輸入先多元化や国産化を実現し、日本に打ち勝とうとした。いわば「脱日」による「克日」の訴えだった。

 この「克日」という考え方は新しいものではない。

 1980年代の全斗煥政権時代に出た対日アプローチだ。いつまでも「反日」という日本への反発にとどまるのではなく、日本を乗り越えて行かなければならないと、新たな対日政策として「克日」が訴えられた。文大統領の訴えもそういう基調だった。

 だが、韓国もいつまでも「克日」でいいのだろうか。その後、韓国民に興味深い反応が生まれた。ソウルの繁華街、明洞などを含む中区は日本政府が韓国をホワイト国から外したことに抗議し、8月5日に「NOボイコット日本」と書いた、不買や日本旅行の取りやめを呼び掛ける旗を1100本設置すると発表し、翌6日からその一部を設置した。

 しかし、市民からは「せっかく韓国が好きで来ている日本人観光客に不快感を与える」という強い反発が出て、旗は撤去された。

 進歩系のハンギョレ新聞も8月7日付に「『NOJAPAN』ではなく『NO安倍』、賢明で成熟した対応を」と題した社説で、日本を否定するのではなく、安倍政権を否定しなければならないと主張した。

 ソウル市中区の区長の先走った政治判断が住民の反発で取り下げられ、韓国内で「反日」と「反安倍」を区別しようという雰囲気が急速に広がった。

 文在寅大統領も軌道修正を図りだした。文大統領は当初の自身の感情的な対応を忘れたかのように、8月12日には「日本への対応が感情的であってはいけない」と批判のトーンを下げた。

 そして日本の植民地支配からの解放日である8月15日の「光復節」での演説では直接的な反日的表現を避け「日本が対話と協力の道へ向かうなら、われわれは喜んで手を結ぶ」と述べ、日本に対話を呼び掛けた。

 文大統領は「国際分業体制の下で、どの国であろうと自国が優位にある部門を武器化すれば平和な自由貿易秩序は壊れてしまう」と日本を批判しながらも、「日本が隣国を不幸にした過去を省察する中で、東アジアの平和と繁栄を共にけん引していくことをわれわれは望んでいる」と語った。

 文大統領が「反日」を控えた以上に「東アジアの平和と繁栄を共にけん引していくこと」を強調したことは意味があると考える。いわば「克日」から「共日」への移行だ。8月2日の「脱日による克日」からの重要な変化だと思う。

 隣国同士の在り方が、どちらが勝つかを競い合うというのは寂しい。日韓はどっちが勝つかではなく「共に」ということに意味があるのではないだろうか。韓国が80年代から掲げ始めた「克日」を乗り越えて「共日」や「協日」に歩み出してほしい。

 一方、この間の動きを見ていると、日本も深刻な問題を抱えている。「韓国」という言葉が出るだけで嫌悪感を示す雰囲気が急速に広がっている。それが市民社会の中に根を下ろし始めていることに脅威を感じる。日本社会に広がりつつある「嫌韓」や「反韓」の持つ排外主義的な傾向を警戒すべきだろう。

 韓国もまた、裁判で差し押さえられた日本企業の資産の現金化をストップさせるための工夫をし、日本側が受け入れられるようなアイデアを提供すべきだ。

 日本と韓国は、当分の間は米国と中国の覇権争いの中で生きていかなければならない。その谷間で一国だけが声を上げても弱い。日韓が協力し、共に声を上げてこそ力になる。来るべき東京五輪・パラリンピックが現在のような日韓のとげとげしい雰囲気の中で行われる不幸は見たくない。日韓両政府とも、早く「出口」を模索すべきだ。

 本稿を提稿した後で、韓国政府が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると決定するとの予想外の事態が生まれた。日本政府の輸出規制強化や「ホワイト国の韓国外し」は、日韓の対立を歴史問題から経済分野に拡大するものだったが、韓国政府のGSOMIA破棄はこの対立を安全保障分野に拡大するものだ。

 日米韓の軍事的な枠組みは日米同盟と米韓同盟で成り立っているが、GSOMIAは同盟関係にはないが米国を通じて友好関係にある日韓を結ぶ象徴的な協定だ。それを切ることは、日米韓の枠組みを揺るがすだけでなく、米韓同盟にも否定的な影響を与えるだろう。

 筆者の訴えたかった「反日」や「克日」を乗り越えた「共日」や「協日」というアプローチはまだまだほど遠いということなのだろうか。しかし、日韓がこの「負の連鎖」をどこかで断ち切らねば、日韓関係はさらに悪化し、両国の人々に深い傷跡を残すだろう。もう、そろそろ相手を非難するだけではなく、状況転換への対話に踏み出すべきだ。

 

(KyodoWeekly9月2日号から転載)

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