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習氏の笑顔が消えたわけ 影落とす米中貿易協議の決裂

 

 米国のトランプ大統領が、中国に〝貿易戦〟を仕掛けて以来、習近平国家主席の表情が大きく変化している。5月中旬に北京で開かれた、アジアの文化交流を促進する「アジア文明対話大会」に現れた習氏は、笑顔がないだけではなく、ひどく疲れているように見えた。習氏にとって、米中貿易摩擦が「前門のトラ」とすれば、「後門のオオカミ」は中国指導部内の激しい権力闘争だろう。インサイダー情報に詳しい中国ウオッチャーの龍評氏に舞台裏の一部を報告してもらった。(編集部)

 

 かつて「民族の振興」、強国になって世界の先端に立つと連発したとき、習氏の表情は晴れやかで、歩き方も自信たっぷりだった。「世界はわれらのものだ」という意識で、国内の軍事パレード、20カ国・地域首脳会議(G20)、トランプ氏を故宮に招待するなど大きな国際行事を主催した。習氏は公共の場で笑顔が多く、金持ち国のリーダーらしい振る舞いをしてきた。

 しかし、米国から貿易戦が仕掛けられて以来、習氏の表情はだんだん曇り、覇気も消えた。中国の夢や民族振興という言葉も聞かれなくなった。

 特に米中貿易協議が決裂した後、その笑顔は完全に消えた。明らかに悩んでいるように見えた。つまり彼は心から笑えなくなったのだ。米中貿易戦がいかに激しいものであるかを証明するものだろう。

 そして、貿易戦のさなか、中国政府内部の権力闘争が激しく行われたことも、笑顔が消えた一因であろう。

 5月5日、米国が中国に対し、追加関税の制裁を宣告したことで中国指導部を震撼(しんかん)させた。それは激しい権力闘争の引き金も引いた。中国交渉団のトップである劉鶴(りゅう・かく)副首相が1日遅れて米国に行き、中国側は米国との交渉を続ける姿勢をみせたが、芳しい結果を得ることはできなかった。

 米中双方が対話を続ける意向を示し、貿易戦の終結の希望が薄かったが、とりあえず、米中両国の首脳に委ねられた。交渉決裂の理由は、中国側がさまざまな約束をほごにしたことで、米国側が受け入れることができなかったようだ。

 いったい中国指導部に何があったのか? まずは米国側の宣告に声を失った。トランプ氏が対中関税を25%に引き上げる意向について、中国のマスコミは一切報じなかった。トランプ氏は本当にやるとは思わなかったためだろう。

 約2日間沈黙した末、中国は強く反撃に出た。その動きと並行し、香港から微妙な記事が習氏を窮地に追い込んだ。「南華早報」が5月6日に「あらゆる可能な結果の責任を私が負う」と習氏が指示したと伝えた。

 南華早報は香港の歴史のある新聞で、中国政府内部情報の報道に長けている。元国家主席を務めた江沢民(こう・たくみん)グループの有力者と関係が深いことも知られている。この報道で、習氏が米中貿易交渉を決裂させた張本人であることを世に宣告した形となった。

 「これはまずい」。自分の責任にさせられた習氏もすぐに反撃に出た。5月13日に「新華網」が「習近平が中共中央政治局会議を主持」と報道。それによると、会議の主題は緊迫性のない教育問題で、最後に「ほかの事項も研究した」で結んだ。

 この「ほかの事項も研究した」に注目すべきだ。米中貿易戦の対策が含まれていたと思われ、習氏がこれで見事に米国との対抗は自分の決定ではなく、集団意識だと弁明ができるようにしたわけだ。通常であれば、月末に行われるこの会議は5月13日に開かれただけで異例で、明らかに違う目的があった。

 中国のある政治ウオッチャーは「習氏が米中貿易戦に関する自分の責任を逃れるために、この会議が開かれたと分析。つまり、世に米中貿易の問題は自分1人ではなく、中共中央政治局の集団決定事項だと知らせたかった」と指摘する。

 案の定、その会議のあと、号砲が打たれたかのように、中国大陸で反米宣伝キャンペーンを大々的に打ち出した。中央テレビは文化大革命のときをほうふつとさせた言葉を連発し、容赦なく米国を批判した。「人民日報」も社説で強い口調で中国は屈しないと人々を奮い立たせた。

 しかし、反習派、つまり米国に妥協を主張する派も座視しなかった。5月20日に新華社が突然、「速報:中米貿易戦停火!止戦!」とネットで流した。それはたちまち転載されたが、約20分後に削除された。新華社は自社の名義を勝手に使い、発した偽ニュースだと釈明したが、真実は闇のままだ。海外マスコミは、その速報が意図的に流されたと分析。目的は習氏の対米強硬政策に反対するためであったという。

 習氏は認めたくはないだろうが、彼は本心では米国と対決したがっていると思う。2017年12月25日、ソ連解体26周年の際、習氏が「(ソ連には)男がいない。(民主化に)抗争する人があまりいなかった」と話した。それは米中貿易戦に当てはめると、習氏は「男になろう」としたに違いない。だから、対米融和派と対峙(たいじ)しながら、機会をうかがっていたのではないか。

 5月の米中交渉の最終局面で、米国が中国に対し法律に基づき、約束を守らせようとしたことが分かると、習氏はすぐに反撃に出た。そして「自分が全責任を負う」とまで言いだしたのであろう。

 しかし、マスコミに暴露され彼は自分の権力を守るために、集団決議だと主張しなければいけなくなった。そうして反対派を抑えるだけではなく、国民にも納得させる必要があったからだ。中国の国民も米中貿易戦に賛成と反対に両分されている。国内で報道されなくても、トランプ氏が対中関税引き上げと、ツイッターでつぶやいた後、中国株式市場の株価が下落したように、ネット上では多くの中国国民が米国を支持したといえるのではないか。

 米中貿易戦は当面、続くであろう。トランプ氏が中国政府の統治を脅かす要求を変えない限り、終結はできないからだ。なにより、それこそ習氏が一番恐れている。

(中国ウオッチャー 龍 評)

 

 (KyodoWeekly6月24日号から転載)

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