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「陸海空の現場~農林水産」美しくない負けっぷり

 世界貿易機関(WTO)の紛争処理上級委員会は4月11日、韓国による日本産水産物の輸入禁止措置を不当とした紛争処理小委員会(パネル、一審に相当)の判断を破棄し、日本が逆転敗訴した。

 漁業関係者にとっては残念だが、消費者の安全確保という点では前向きに評価できる。問題なのは「敗訴」という結果よりも、無謀な提訴に持ち込んだ日本の外交戦略であり、訴訟の実態を正確に伝えない安倍晋三政権の姿勢だ。

 WTOは自由貿易を原則としているが、健康に影響がある場合などに「衛生植物検疫措置に関する協定」(SPS協定)に基づいて貿易を制限できる。例えば2003年末に米国で牛海綿状脳症(BSE)が発生した際、日本政府は直ちに北米産の牛肉輸入を禁止して一部の牛丼が販売停止に追い込まれた。

 韓国政府は、東京電力福島第1原発事故に伴う汚染水の海洋漏えいを懸念し、福島など8県で水揚げ・加工された水産物の輸入を全面禁止した。日本政府はこれを不当としてWTOに提訴、パネルで勝訴すると、安倍政権はあたかも国際的に安全だと認められたかのように強調した。

 しかし、日韓双方が争ったのは「韓国の措置は不必要に貿易制限的か」と「日本産水産物に対して差別的か」の2点であり、「安全」そのものが問われていたわけではない。

 冷静に考えれば当たり前だが、WTOは食の安全の評価機関ではなく、裁判官に相当する委員は国際通商法の専門家だ。上級委は、食品のリスクをできるだけ低く抑える措置は各国の専権であり、潜在的なリスクも含めて議論するべきだったとし、パネルの判断を破棄した。紛争委には再審や差し戻しの制度がなく、上級委の判断が最終決定となった。

 政府は「日本産食品は科学的に安全で(中略)パネルの事実認定が上級委でも維持された」(河野太郎外相)と説明しているが、前述したように「安全」そのものは最初から問われていなかったし、上級審は日本の最高裁と同様に法解釈のみで、下級審の具体的な事実認定が維持されるのは当たり前だ。外相の発言には、WTOの判断を正面から受け止め、それを正確に国民に伝えようという意思がまったく感じられない。

 

メンツを守る

 

 「敗訴したとの指摘は当たらない」(菅義偉官房長官)との見解に至っては、政府系シンクタンクの独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の専門家からも「紛争を提起した目的を達せられないのであり、紛れもない敗訴だ」(川瀬剛志RIETIファカルティフェロー)と批判されるほどの詭弁(きべん)だ。

 本誌19号(5月13日発行)のコラム「経済双眼鏡」(武田晴人氏)によると、RIETIは、所属の研究者らに対し、「論文は研究所の見解を示すものではない」と明確にするよう注意喚起したという。語るに落ちる、とはこのことだ。

 さらに敗訴後、日本政府は「輸入規制措置と協定の整合性を判断しておらず問題だ」とWTOを批判、4月28日にカナダの首都オタワで記者会見した安倍首相は「紛争解決に資さない形で結論が出されるとの議論があり、改革が不可欠だ」と述べた。改革が必要なほどWTOに問題があるなら最初から提訴するべきではなかった。

 そもそも「風評」は、訴訟で白黒をつけても決着しない。消費者が納得しなければ輸出は回復しないからだ。勝訴していれば一審の時と同様に「WTOが安全性にお墨付きを与えた」と誇張したに違いない。

 メンツを守ることが先走りした、「美しい国」にふさわしくない負けっぷりだ。

農政ジャーナリスト

一ノ口 滴水(いちのくち・てきすい)

 

(KyodoWeekly5月20日号から転載) 

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