国際
政治・経済・国際の解説&分析記事

「堕胎罪」は「憲法不合致」

 韓国の憲法裁判所は4月11日、人工中絶手術を行って起訴された医師が刑法の「堕胎罪」について判断を求めていた訴えに対し、妊娠初期の中絶までを全面的に禁じ、違反した場合は処罰するという刑法の規定について「憲法不合致」という違憲判断を下した。

 これで韓国刑法269条にある「自己堕胎罪」と、同270条にある「同意堕胎罪」は「憲法不一致」となり、1953年に制定された堕胎罪の規定が66年ぶりに見直されることになった。

 韓国の裁判は一般的には三審制で、最高裁に当たるのが大法院だ。これとは別に、憲法判断だけを行う憲法裁判所があり、憲法裁判所の判断は最終決定になる。

 今回の判断では9人の裁判官のうち4人は「憲法不合致」、3人は「違憲」、2人は「合憲」だった。違憲が成立するためには6人の違憲判断が必要だが、9人中7人が違憲とした。

 ただ、「違憲」だとその法律はすぐに効力を失うが、「憲法不合致」というのは、その法律をすぐに廃止すると混乱が生まれるので法改正などの対応を求めることだ。憲法裁は、堕胎罪を即座に廃止することはしないが、2020年末までの法改正を求めた。この期限までに法改正がされない場合は堕胎罪の規定は全面的に廃止となる。

 実は憲法裁は2012年8月にも同じような訴えに対して判断を下したが、合憲4、違憲4で、結果的に合憲となった。この時は、胎児には時期に関係なく生命権があり、これは妊婦の自己決定権に優先するとして堕胎罪を合憲とした。

 しかし、今回の決定は「堕胎罪の規定は妊娠した女性の自己決定権を制限して、胎児の生命の保護という公益にのみ絶対的な優位性を与えている」と指摘し、7年前の合憲判断とは異なる判断を下した。

 憲法裁は、胎児が母体を離れて生存できる時期を「22週前後」と判断した。つまり、中絶を許容できるのは妊娠22週前後までとし、その期間は妊婦の自己決定権を最大限尊重すべきだということだ。早産をしても約22週以後は胎児が生存できる可能性が高いためだ。

 今後は、国会が堕胎罪の改正に取り組むことになるが、韓国内の意見はさまざまだ。保守的傾向の強い人々は依然として「胎児の生命権」を主張して人工中絶を禁止すべきとする。これに対し、堕胎罪そのものを廃止すべきだと主張する人々もいる。

 韓国政府が今年2月に発表した調査では、17年の人工中絶件数は約5万件という。これは05年の約34万2千件の約7分の1だった。韓国政府は件数が減ったのは避妊実施率の増加や事後避妊薬処方件数の増加、妊娠可能女性人口の減少などのためとした。しかし、中絶が違法な状況で、女性が政府の調査に正直に答えるとは思えないとし、実態を把握していない数字だとする声もある。

 これまでも妊娠中絶は違法だが、現実には広く行われてきた。韓国メディアによると、過去5年間の堕胎罪の起訴件数は年間10数人程度だ。

 一方で、ネットで妊娠中絶薬を違法取引するケースが増えている。朝鮮日報によると、妊娠中絶薬の違法取引での摘発件数は13年には514件だったが、昨年2197件と約4倍になった。これも実際の違法取引のほんの一部の可能性が高い。

 今回の憲法裁判所の堕胎罪を違憲とする判断は、韓国社会の意見の変化を反映したものといえるが、国会での法改正ではさまざまな意見が出そうだ。

(ジャーナリスト 平井 久志)

 

(KyodoWeekly4月29日・5月6日号から転載)


PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ