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屈せざる人々の姿見守る 土門拳賞に輝いた写真集

 カンボジアではフン・セン長期政権による強権支配が続く。政権による弾圧に抵抗する人々の姿を撮影してきたフォトジャーナリスト高橋智史さんの写真集「RESISTANCEカンボジア屈せざる人々の願い」(秋田魁新報社)がこのほど、土門拳賞を受賞。出版に携わった同社担当者が、拡大版「本の森」として、書評を寄せた。(編集部)

秋田魁新報社、2500円(税別)

 「私は権力の横暴には絶対屈しない。子どもたち、強く生きなさい」

 こう叫ぶのは、写真集の表紙に映るカンボジアの女性活動家テップ・バニー氏だ。首都プノンペンの裁判所で控訴裁判を終え刑務所に連れ戻されようとする時、人々の前で拳をかざしながら強い意志を示した。

 著しい経済成長を続けるカンボジアでは、街に高層ビルや華やかな商業ビルが立ち並び、高級車も行き交う。急激な開発は社会に多くのひずみを生んでおり、その一つが土地の強制収用問題だ。

 テップ・バニー氏は、中国資本による大規模開発に伴い、住み慣れた家や土地を立ち退くよう強要されたという。政府と開発業者から一方的に補償案と移住案を示され、異議を唱えると武装警察官に声を封じられた。権利を守ろうと住民リーダーとして立ち上がり、対政府デモを主導してきたが、当局に真偽不明の罪を着せられ何度も身柄を拘束された。

 本書「RESISTANCEカンボジア屈せざる人々の願い」は、フォトジャーナリスト高橋智史さんの、カンボジア取材の集大成として刊行した。

 高橋さんは2007年、プノンペンに拠点を構え、主に人権問題の取材を続けてきた。華々しく映る経済成長の陰に追いやられた人々に光を当て、力強く生きる姿を英字メディアなどに発表している。

 人々を弾圧する武装警察官やセキュリティーガード、頭を殴られ流血する少年、政治評論家の暗殺現場―。写真を見ると、高橋さんは常に権力に対峙(たいじ)する人々の側に立ち、最前線で撮影し続けてきたことが分かる。

 高橋さんはデモの取材中、当局者に腕をつかまれ連行されそうになったことがある。デモ参加者が人壁を作って高橋さんを守り「ここで捕まってはいけない。私たちの声を伝えてくれ」と願いを託してくれたという。

 ポル・ポト政権時代と内戦の悲劇を経たカンボジアは、再び一党支配に突入した。高橋さんが取材を通して目の当たりにしてきたのは、フン・セン政権が最大野党を解体し、批判的な主要英字紙を廃刊に追い込み、ジャーナリストや活動家、市民を次々逮捕していく様子だった。

 最大野党が不在の中、昨年7月の下院選では与党が全席を獲得。野党側は不当選挙だとして投票ボイコットを呼び掛け、多くの白票が投じられたという。

 高橋さんはあとがきで「フン・セン政権は社会から正義を奪い取って総選挙で完勝した。この事実はカンボジアの未来に何をもたらしてくれるのだろう」と問い掛けた。屈せずに闘うカンボジアの人々に安寧の日が訪れるのはいつなのか。高橋さんは、ファインダーを通して最後まで見守り続けるつもりだ。

 ×   ×   ×

 本誌に寄せられた高橋さんの受賞の言葉は、以下の通り。

 土門拳賞を受賞することができ誠に光栄に存じます。未来を生きる子どもたちを思い、民主と社会正義の確立を求め、権力の横暴に命を懸けて立ち向かうカンボジアの人々の屈せざる願い。その見つめ続けてきた切望を、受賞を通して多くの方々に伝えることができ、心からの喜びを感じています。私はこれからも、愛するカンボジアの大地に軸足を置き、弱い立場に不当に追いやられていく人々の願いに心を寄せ、彼らの尊厳を伝え続けていきたいと思います。

高橋さん近影

 たかはし・さとし 1981年秋田市生まれ。日本大学芸術学部在学中の2003年から東南アジアで取材を開始。卒業後にカンボジアの首都プノンペンに拠点を構え社会問題などを取材、秋田魁新報で07年から4年間「素顔のカンボジア」を連載した。13、14年国際ジャーナリスト連盟日本賞大賞、14年名取洋之助写真賞、19年土門拳賞を受賞。

 

[筆者]

秋田魁新報社事業局企画事業部部長代理・出版担当

生内 克史(しょうない かつし)

 

(KyodoWeekly4月29日・5月6日号から転載)


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