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日中協力で貿易交渉を RCEPからTPPへ

 米国のトランプ大統領が2017年、環太平洋連携協定(TPP)離脱の大統領令に署名。日本とは包括的な自由貿易協定(FTA)を目指す対日貿易交渉の方針を打ち出した。米国は中国に対しても保護主義的な通商政策の下で貿易摩擦が続いている。そんな中、中国は世界の自由貿易体制をリードする姿勢を強めている。日本は米中のはざまで、どのように貿易交渉を進めていけばいいのか、専門家に寄稿してもらった。(編集部)

 

 米国がTPP12の合意から脱退し、その通商政策が自国の交渉力を発揮できる二国間の交渉に転換したのとは対照的に、日本は2018年12月30日に米国を除いた11カ国のTPP11協定(新しい名称はCPTPP)を、続いて19年2月1日には欧州連合(EU)との日EU経済連携協定(EPA)という二つの大きな自由貿易協定(FTA)の発効を主導した。

 経済大国である米中が貿易戦を展開している間に、世界国内総生産(GDP)の約35%を占める二大メガFTAの誕生を見た日本は、さらに世界貿易の自由化の旗手として、世界の貿易自由化を加速させようとしている。特に、TPP11のメンバーを拡大させていくとともに、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉についても、19年内の合意に向けて積極姿勢を見せている。

 

中国の事情

 

 他方、世界貿易機関(WTO)改革など世界貿易ルールやガバナンス・システムの急変化に直面し、米国との貿易紛争への憂慮を深めている中国国内では、TPP11に加入すべきだとの声が高まってきている。

 その背景には▽18年前のWTO加盟時の市場開放コミットメントをベースにして設計された制度や、枠組みは時代遅れである▽ニューエコノミーを中心に華為技術(ファーウェイ)、アリババ、騰訊控股(テンセント)、北京小米科技(シャオミ)、DJIなど、中国国内で数多くの有力企業が台頭し、海外進出が必要になった▽彼らの海外展開を補強するために、新たな貿易投資枠組みが必要である▽より現実的にはTPP11加入により、中国国内の経済制度やルールが国際の潮流に合致する方向で変化し、米中間の構造的な紛争が解決されやすい―などが挙げられている。

 日本はレベルの高いRCEP合意を目指しており、中国が高レベルの市場開放と21世紀のルールを持つと言われるTPP11への加入を志向すれば、TPP11をベンチマーク(指標)に、RCEP交渉における日中の共通点が高まってくるので歓迎されるだろう。

 他方、日本がメガFTAの締結を急いでいるのは、米国の保護貿易的な行動に自由貿易の防波堤を築き、米国による二国間FTA締結の圧力をかわす狙いがあると言われている。

 確かに日本は、安全保障では米国に依存しており、米国は貿易、投資、技術交流などの経済分野においても、日本にとって最大のパートナーとなっている。日米における強靭(きょうじん)で安定する経済貿易関係を維持していくのは、優先的な政策選択であると理解されよう。

 

日本の特殊事情

 

 もっとも、日本は米国と二国間のFTAを結ぶ選択肢も考えられるが、農業分野や一部のサービス分野で守らなければならない国内事情がある。日本社会には日米FTA交渉に入ると、米国からの圧力に耐えられなくなり、国益が大幅に損なわれるという深い懸念がある。

 例えば、TPPの農産品分野交渉の結果において、その他のメンバー国は0%~6%前後の関税を留保しているのに対して、日本は19・0%の関税留保を維持している。

 また、越境サービスや金融サービスにおいても日本の留保項目は73項目に上り、TPPメンバー国の中で最も多い国となった。対日農産物輸出を狙い、サービス業の対日進出を深めたいトランプ政権は、TPPの結果に不満を抱くのも想像できるが、日本社会にとっては受忍限度に到達していると言えよう。

 ルールの分野では、TPP11は、TPPの中の22項目(うち知財関連11項目)を凍結したので、ルール分野で急進的(ほとんどは米国の要求でTPPに挿入されたものである)から、より現実的な形になったと言える。

 TPP11が合意して発効を見たのも、このようなバランスを図れた結果であろう。TPP11に加入すべきだという中国国内の声も、自国がTPP11の市場開放や、ルールを乗り越えられると判断して出されたと考えられる。

 

市場開放進める中国

 

 実際、2013年に新たな開放型経済体制の整備を掲げる習近平政権は、腐敗撲滅で進展が遅れた市場開放政策を加速させてきている。特に、トランプ政権からの攻撃的な通商圧力に直面する中国は、「自主」開放措置で貿易摩擦に対応しようとしている。

 これまで実施された措置としては、①抗がん剤(28税目)の関税撤廃②自動車関税(218税目)を25%から15%(自動車部品は6%)に削減③日用品(1449税目=農林水産・軽工業品・アパレル・家電など)の関税を大幅に削減④生産・部品など(1585税目=機械電機・素材部品など)⑤銀行業・保険業・証券業の資本規制の段階的撤廃(経過期間5年)や、自動車および他の製造業の資本規制を段階的撤廃(経過期間5年)、などが含まれる。

 このような大幅な関税の引き下げで中国の実質関税は、先進国の平均レベルに近づいてきているのではないかとみられる。

 また、TPP11における国有企業に関する規定も、中国のWTO加盟議定書に規定されている「商業志向」にとどまっている。さらに投資先の国が投資企業に対する技術移転などを要求することを禁止することも、中国のWTO加盟議定書に書かれており、最近成立した「外商投資法」に明文化されている。

 日本が言っている21世紀型ルールにおいて、電子商取引に関する「TPP3原則」と呼ばれる規定がある。それは①情報の電子的手段による国境を超える移動の確保②コンピューター関連設備の設置・利用要求の禁止③ソースコードの移転・アクセス要求の禁止である。

 この3原則は、中国の現行の「ネット安全法」に抵触する。中国は電子商取引大国で、アリババのような有力ベンダーも存在するのに、現行規制はデジタル貿易時代の潮流に乗っていないと言わざるを得ない。

 

TPP参加の道筋

 

 ただし、TPP11のルールには「正当な公共政策の目的」という例外規定があること、日本欧州EPAでは③のみが規定されていること、TPP11メンバーであるベトナムも中国と同様「ネット安全法」が存在し、TPP11ルールを履行する猶予期間を与えていること、などを考えると、交渉次第では中国が克服できないハードルではないと考える。

 これからの1~2年でさらなる自主的な関税の引き下げや大幅な規制緩和も考えられるので、身軽になった中国が、高いレベルのRCEP交渉に積極的に出てくる可能性もある。筆者は、期待を込めてTPP11をベンチマークにするRCEP交渉に向けて日中協力を提言したい。その協力関係がうまくいけば、中国のTPP11へ参加する道も見えてくると言えよう。

[筆者略歴]

富士通総研経済研究所主席研究員金 堅敏

1985年7月、中国浙江大学大学院修了。同年9月~91年12月まで中国国家科学技術委員会勤務。97年3月、横浜国立大学国際開発研究科修了・博士。98年1月より現職

 

(KyodoWeekly4月15日号から転載) 


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