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岐路に立つ米朝交渉の行方  首脳会談「決裂」の背景探る

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長がベトナムのハノイで2月27、28日の両日行った第2回米朝首脳会談は何の合意もなく、事実上、決裂した。その背景に何があったのか、岐路に立った米朝交渉の今後を探ってみた。

 

直前まで実務協議拒否

 

 昨年6月のシンガポールでの初の米朝首脳会談は原則的な合意に終わっただけに、今回のハノイ会談では、非核化などでの具体的な合意が期待された。

 ポンペオ米国務長官は、シンガポール会談が終わると同年8月23日、米自動車大手フォード・モーターのスティーブン・ビーガン副社長を北朝鮮担当特別代表に起用した。北朝鮮との交渉を加速化させるために、ビーガン特別代表と北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)次官との実務協議を北朝鮮に働き掛けたが、北朝鮮はこれに応じなかった。

 これは北朝鮮の主張する「新しい方法」という対米交渉方針に基づくものだった。北朝鮮は、これまでの実務者が協議を積み上げて首脳にあげる手法は「古い方法」と否定し、米朝首脳によるトップダウン方式で交渉を進める方針だったためだ。

 ビーガン特別代表は今年2月6日から8日まで訪朝し、新たに起用された金革哲(キム・ヒョクチョル)・国務委員会特別代表と、実務協議を行った。だが、北朝鮮は合意文書作りに入ろうとせず、お互いの主張を出し合うだけで終わった。

 合意文書作りは、ハノイ会談直前の2月21日から25日までの実務協議でようやく実現した。そこには朝鮮戦争の終戦宣言や、連絡事務所の相互設置などは盛り込まれていたとみられるが、核心の非核化と制裁解除については空白か、またはいくつかの選択肢を示し、首脳の判断に委ねるものだった。

 北朝鮮は、長い報告書を読むことすら嫌がる、というトランプ大統領を取り込めば、外交的な勝利を得られるという甘い読みだった。

 

最終局面で変わった

 

 ビーガン特別代表は訪朝前の1月31日、米スタンフォード大で講演した。この講演は国務省のホームページにも掲載され、訪朝を前にした北朝鮮へのメッセージだった。

 ビーガン特別代表は、米国の北朝鮮政策について「相手が全てを先に実行すれば、われわれもそれに応じて何をすべきかを考えるというふうに解釈されてきた」とした上で、「それはわれわれの政策ではない」と発言した。

 これはボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が当初主張していた「先非核化、後補償」という一括妥結方式ではなく、北朝鮮の主張している「段階的、同時的措置」に近づいたという印象を与えた。

 さらにビーガン特別代表は講演で「われわれは包括的な(核の)申告を通じて、ある時点で、これを得るだろう」と述べた。米国は核の申告を求めるが、すぐではなく、将来の「ある時点」であるとした。ビーガン特別代表の発言から、米国が非核化の方法論でかなり北朝鮮に接近したという印象を与えた。

 しかし、米国は首脳会談直前に姿勢を転換した。米政権は、会談直前に一括妥結方式、段階的解決、ノー・ディール(取引なし)など全てを持ち込んで対策を協議した。その結果、トランプ大統領はハノイの首脳会談第1日目の夕食会で英語と朝鮮語で書かれた二つの文書を金正恩委員長に渡した。

 ボルトン補佐官が米メディアに明かしたところによると、その内容は、北朝鮮が核、ミサイル、生物化学兵器という大量破壊兵器まで廃棄すれば、経済制裁は解除され、明るい未来のために第三国による経済支援も可能だとの内容だった。米国は、結局、かつてボルトン補佐官が主張していたリビア方式に近い一括妥結方式に戻ってしまった。北朝鮮にとっては、これは全面的な武装解除要求だった。米朝間で信頼が醸成できていない状況で受け入れることは不可能だ。金正恩委員長は、すぐにこれを拒否した。

 一方、北朝鮮は寧辺(ニョンビョン)の核施設の廃棄をする用意があるとし、この対価として2016年以後の制裁5件の軍事分野を除く民生分野の制裁解除を求めた。国連の北朝鮮への制裁決議は11件あるが、実際に北朝鮮に深刻な影響を与えているのは16年以降採決された6件のうちの5件である。北朝鮮は11件のうちの5件、それも民生分野に限った「部分的解除」を要求したと主張しているが、これは詭弁(きべん)にすぎない。

 実際に北朝鮮に打撃を与えているのは解除を要求した5件であり、そこには石炭、鉄鉱石など地下資源や水産物、繊維製品などの輸出禁止や、石油の輸入禁止なども含まれている。事実上の全面制裁解除である。「寧辺の核施設廃棄」には言及したが、廃棄する具体的な施設については言及しない抽象的なものだった。

 北朝鮮の要求もまた、現実を無視した無理な要求だった。米国は会談を前に、国連制裁は堅持すると繰り返し述べており、「寧辺核施設」で「全面制裁解除」ができると考えたこと自体が異常であった。それは最高指導者に客観的な情報が正確に伝わっていないという北朝鮮側の体制システムにも問題があることを物語っていた。

 

後押ししたコーエン証言

 

 米国の要求はボルトン補佐官が当初主張していた「一括妥結方式」であり、完全な非核化が交渉の入り口だ。北朝鮮は信頼関係のない米朝関係だけに非核化を段階的に進め、段階ごとに米国がそれに見合う措置を取り「完全な非核化」は米朝交渉の出口にあるという考えだ。

 北朝鮮は「ビッグ・ディール」(大きな取引)を拒否したが、トランプ大統領は準備した合意書にサインすることも可能であった。合意できている部分だけを文書化する「スモール合意」である。

 しかし、トランプ大統領に「ノー・ディール」を進言したのはポンペオ国務長官だったようだ。穏健派とみられていたポンペオ長官が「ノー・ディール」を進言し、トランプ大統領がこれを受け入れ、結果として米政権に穏健派、強硬派の亀裂はなくなった。

 トランプ大統領の決断に影響を与えたのは、本国で行われていた米議会でのトランプ氏の元弁護士、マイケル・コーエン被告の公聴会だったようだ。

 トランプ大統領は2月27日夜、ホテルの部屋で本国の公聴会の行方を見守ったようだ。米国内では国民の関心は米朝首脳会談よりもこの公聴会に集まっていた。トランプ大統領は3月3日のツイッターでコーエン証言が「北朝鮮との首脳会談で(私が会談場を)出てきたことに寄与した」と、米朝首脳会談決裂の要因の一つであることを認めた。

 全体を振り返れば、今回の会談決裂は①米朝両首脳の交渉家としての過信②現実を無視したとても相手が飲めない過大な要求③不十分だった実務協議④米国内の政治状況―などが生んだ結果だろう。

 

崔善姫次官のどう喝

 

 北朝鮮の崔善姫外務次官は3月1日未明に記者会見し、金正恩委員長が「朝米交渉に対して、少し意欲を失くしたのではないか」と米国をけん制した。さらに3月15日に平壌で海外メディアを集めて記者会見し、首脳会談決裂の責任は米国にあるとし、米朝交渉中断の可能性を警告した。さらに核・ミサイル実験停止を続けるかどうかは、金正恩委員長の「決断次第だ」と述べ、国際社会をどう喝した。

 一方、北朝鮮が廃棄を約束し、一部を壊した東倉里(トンチャリ)のロケット発射台で復旧の動きがあることが国際社会の注目を集めた。ただし、この動きはハノイ会談前から始まり、3月初めで止まっており、その意図は不明だ。現時点ではミサイル発射の可能性は低いとみられる。

 ただこの施設は、北朝鮮では「西海衛星発射場」とされており、ミサイルではなく人工衛星発射の可能性も指摘されている。もし、北朝鮮が人工衛星発射に踏み切れば、国際社会はミサイル発射とみなし、米朝交渉は存続そのものが危ぶまれる事態に陥る。

 

米朝とも交渉継続の姿勢

 

 北朝鮮の党機関紙「労働新聞」など公式メディアはハノイ会談が決裂したことには触れず、第2回首脳会談を「成果のうちに終えた」と評価している。崔善姫次官もポンペオ長官やボルトン補佐官を非難しながら「朝米首脳の関係は良い」とし、トランプ大統領の批判は抑えている。米政界では「ノー・ディール」に批判はなく、むしろ評価する雰囲気だ。だが、トランプ大統領は本稿執筆時までは発言を控えている(3月22日)。

 だが米国は、北朝鮮が全面武装解除しなければ制裁解除はないとし、北朝鮮は寧辺核施設廃棄で制裁全面解除という過大な要求をするという基本姿勢の差を埋めることは容易ではない。

 米朝の基本姿勢の大きな溝を埋めるには相当な時間が掛かるだろう。だが、米朝双方ともに交渉を必要としており、紆余(うよ)曲折の果てに交渉は再開されるだろう。おそらく、米朝交渉の最後のチャンスは米大統領選挙の前だ。金正恩委員長が訪米し、首脳会談ができるかどうかだ。

 北朝鮮も経済制裁が今後、次第に深刻な影響を与えるだけに、何らかの合意を生み出して制裁を緩和する必要がある。だが、その最後の談判で本当に「完全な非核化」が実現するかどうかは不透明だ。北朝鮮はクリントン政権末期の2000年に国交正常化直前まで行ったが、ブッシュ候補の当選で全てが水泡に帰した。今回も米大統領選挙の結果次第では時間切れになり、2000年の繰り返しになる可能性も出てきた。

ジャーナリスト 平井 久志

 

(KyodoWeekly4月1日号から転載)


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