国際
政治・経済・国際の解説&分析記事

ファーウェイ排除に逆らった英国 経済ブロック化に高まる懸念

 第5世代(5G)移動通信システムから中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除し、中国に「デジタル冷戦」を仕掛けたトランプ米政権のもくろみが狂い始めた。英国が全面排除しない方向となったのに続き、ドイツなども同調する見通しだ。中国排除が経済の「ブロック化」を招き、世界経済を萎縮させるとの懸念が広がる。

 

 米国の欧州における最重要同盟国、英国の「反旗」は意外だった。英国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)は2月17日、ファーウェイについて利用を一部制限すべき領域はあるが、「安全保障上のリスクは抑えられる」と判断した。英政府もこの方針に基づき「全面排除せず」を決めるはずだ。

 米政府は、米議会が昨年可決した「国防権限法」に基づき、来年8月から、ファーウェイなど中国通信5社の製品を社内で利用している「世界中のあらゆる企業を米政府機関の調達から排除する」ことを決めた。実行されれば世界中の企業が、中国が絡むサプライチェーン(部品の調達・供給網)から排除される。NCSCが排除しない理由に挙げた「調達先の多様性を確保する狙い」とは、そういう意味である。

 英国では欧州連合(EU)離脱を控え、ホンダの工場閉鎖など企業の「英国離れ」が加速する。英政府も離脱に伴う経済損失を埋めるためにも、中国との経済関係を重視せざるを得ない。特にファーウェイは2013年からの5年間で、英国に20億ポンド(約2880億円)もの投資をした〝お得意さま〟なのだ。

 

崩れる「ファイブ・アイズ」

 

 「欧州の雄」ドイツはどうか。2月初め来日したメルケル首相は「ファーウェイが中国政府にデータを引き渡さないとの保証が得られない限り、5G通信網の構築に参加させない」と発言、ドイツも「米ブロック入りか」とみられた。しかし、ここにきてドイツ政府はファーウェイを排除しない方針を決定したと、ロイター電は伝える。

 トランプ政権は、ファーウェイ排除のコア・メンバーとして、米国中心のスパイ協力組織「ファイブ・アイズ」(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)を想定していた。しかし、英政府が不排除を正式決定すれば、5カ国の一角が崩れる。さらにファーウェイ排除とみられていたニュージーランドのアーダン首相は、2月18日の記者会見で「5G通信網構築における安全性を独自に調査する」と述べ、不排除に含みを持たせる姿勢に変えた。

 

「踏み絵」で世界を二分

 

 IT産業は、冷戦が終わり、ヒト、モノ、カネが国境を越えて移動する時代に急速に発展した。関税障壁のない自由貿易の代表であり、グローバルなサプライチェーンを発達させた。その中で中国の役割は極めて大きい。米国主導の自由貿易体制の恩恵を受けながら、今や米IT産業を追い越す勢いだ。

 そんな中、米国は同盟国に対し、ファーウェイ排除の「踏み絵」を迫り、世界経済を二分しようとしている。それによって世界は、ファーウェイ採用を軸に固く閉じた「米ブロック」と、緩やかな「非米ブロック」に分かれる。

 米中対立の「核心」は、貿易赤字問題ではない。米国は中国による「技術移転強要」やハイテク分野での中国企業優遇など、国家主導で進めるデジタル経済の構造自体を問題視している。

 来年8月から、米政府機関と取引する会社は国籍を問わず、中国製機器の不買を誓約させられ、違反と分かれば何億ドルもの罰金を科せられる。調達参加の企業だけでなく、グループ企業全社から中国製機器の一掃を求めるかもしれない。ハイテク企業の多くは中国に現地法人を置いているから、中国現地法人にも排除を要求される恐れもある。中国企業を完全排除したサプライチェーンなどあり得ない話だ。

 米中対立は既に、グローバルなサプライチェーンに打撃を与えている。中国のIT関連業は2018年第4四半期から急速に落ち込み始めた。中国市場の落ち込みを理由に業績見通しを下方修正する日本企業も増え、日本の対中輸出は1月、2カ月連続で減少した。

 一方の中国。対米政策を巡って揺れ動いた習近平指導部だが、昨秋になって米国との全面衝突を避けるため「対抗せず、冷戦はせず、漸進的に開放し、国家の核心利益は譲歩せず」の超柔軟路線を打ち出した。

 通商ではいくらでも譲歩できる。しかし「中国の発展モデル」を巡る対立になれば「主権」にかかわるから妥協できない。ファーウェイは、“核心的利益”の象徴であり、排除を違憲として提訴するなど徹底抗戦の構えだ。

 

日本は〝究極の忖度〟

 

 日本政府は昨年12月10日、政府調達から事実上中国製機器を排除することを各省庁で申し合わせた。申し合わせには、「中国」や「排除」という言葉はないが、ソフトバンクなど携帯主要4社は、ファーウェイ製品を採用しない方針をすんなり決めた。

 同じ米同盟国でも対応にこれほど差があるのに、日本ではほとんど議論なしに排除が進んでいるのは不思議だ。米国の意向への“究極の忖度(そんたく)”だろう。ただでさえ遅れている日本のIT業界の衰退は一層加速する。

 米国の思惑通り進むと、5G通信網の建設投資コストは上がる。排除の試みは失敗しよう。IT産業の業績悪化が加速すれば、経済界からも政府に再考を迫る声が出よう。ノーベル平和賞候補にトランプ氏を推薦するお遊びをしている場合ではない。

[筆者]

共同通信客員論説委員

岡田 充(おかだ たかし)

 

(KyodoWeekly3月25日号から転載) 


PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ