国際
政治・経済・国際の解説&分析記事

実質的な軍政継続が焦点  タイで5年ぶりの総選挙

 タイで2014年5月に起きた軍事クーデター以来の総選挙が3月24日に実施される。アジア政治に詳しい、フリージャーナリストの須田浩康氏が、バンコクから現地の様子を報告する。(編集部)

 

大政党に不利な新ルール

 

 今回は、タクシン元首相派と反タクシン派の対立による社会的混乱からの治安回復を理由に、政権を奪取した国家平和秩序評議会(NCPO=議長プラユット首相)主導の軍政下で17年に新憲法を公布し、それに基づいて行われる民政復帰への総選挙となる。

 だが、下院議員選挙の仕組みの変更や、上院の軍政任命制など民主主義の観点からは大きく後退したルールによる選挙といえ、選挙後の新政権でも軍政の影響力がどの程度残るかが最大の焦点だ。

 また、各種世論調査では北部、東北部を中心に依然として根強い人気を保つタクシン派の政党が選挙でどこまで健闘するかも大きな関心の的となる。

 上下両院議員を選ぶ仕組みは新憲法で大きく変わった。まず下院(定数500、任期4年)は小選挙区制の選挙区350議席と比例区150議席で構成されるが、前回まで有権者は選挙区候補者1人と比例区で政党名の2票を投じ、選挙区の当選者と、政党の名簿順位に従って比例区の当選者が決まっていった。しかし、新ルールは有権者は選挙区の候補者1人に1票だけ投票する。

 選挙管理委員会はこれを基に各政党が獲得した投票総数を集計し、全有効投票総数に対して何パーセントを占めたかを算出。この比率に基づいて選挙区(350議席)と比例区(150議席)を合わせた下院の政党別の基準議席数を算定する。

 目新しいのは、基準議席数から選挙区当選者数を差し引いた数が比例区の当選者として割り当てられる点だ。この結果、選挙区で大勝しても、比例区で調整されるため、制度的に大政党には不利と言われている。

 

軍の意向を温存する上院

 

 これまで一部は選挙により選ばれていた上院(定数250、任期5年)も各職業分野別の互選枠50議席以外は軍政(NCPO)の選考委員会による任命で、特にこのうち6議席を国軍最高司令官、陸海空軍の各司令官、国防次官、国家警察長官にあてており、上院そのものが国政に軍の影響力をとどめるための仕掛けとみられている。

 さらに新憲法があらためて規定したのが首相指名に関する手続きだ。各政党は立候補届けに際して3人までの首相候補を選管に届け出るよう求められている。首相候補は国会議員である必要はない。総選挙で下院の25議席以上を獲得した政党が首相指名の審議を提起でき、上下両院(750議席)の過半数の承認により首相に指名される。

 しかし、事前に選管に提出された首相候補者の中からの指名ができなかった場合、両院合同会議で候補者名簿外の人物の首相指名について審議を行い、両院の過半数の承認で指名が成立する。

 このため政党関係者の間には「政党による事前届け出候補以外の人物の首相指名に道を開く抜け穴だ」として議会制民主主義の後退だと批判する声も根強くある。

 

「不適切」と国王

 

 選管が1月23日、投票日を3月24日に決定すると、一斉に選挙運動が始まった。年明け後の国家開発行政大学院(NIDA)など複数の世論調査を総合すると、有権者の支持率はタクシン派のタイ貢献党、最も古い政党の民主党(党首アピシット元首相)、軍事政権の元閣僚が主導する親軍の「国家国民の力党(PPRP)」の3党で全体の7割を超える。

 NIDAが2月初め、全国有権者約2千人を対象に実施した調査によると、政党別支持率はトップがタイ貢献党の36・5%、PPRP22・6%、民主党15・2%と続き、各党が選管に届け出た首相候補のうち「望ましい候補」では、PPRPが推すプラユット現首相が第1位で26%、2位はタイ貢献党のスダラット元保健相(女性)の24%、3位が民主党アピシット氏の11%となった。

 2月8日、タクシン派のタイ国家維持党がワチラロンコン国王の姉のウボンラット王女を同党の首相候補として選管に届け出て大騒ぎとなったが、同夜のうちに国王が「不適切」との声明を発表し、同党は直ちに撤回した。

 長い間、都市と農村、富裕層と貧困層の分断を半ば固定する形で発展してきたタイで、2000年代になってのタクシン派の勢力拡大はタイ社会を大きく変質させたともいわれる。

 「持たざる人たち」の階層が選挙を通じて政治に対して意思表示をするようになった結果、エリート層との確執が強まり、社会的摩擦も拡大した。

 選挙をすればその度に、タクシン派が勝利するものの、クーデターや司法機関などの介入で政権から追放の憂き目に遭うという政治サイクルを繰り返してきた。

 今回の選挙は、旧来の支配階層をバックにした軍政が、タクシン派に代表される国民の間の不満勢力を封じ込めるのか、または約5年に及んだ軍政下で講じられたさまざまな影響力維持の仕掛けを突き破って不満層の声が再び政治を動かすのか、タイ政治史の大きな岐路となるのは間違いない。

フリージャーナリスト 須田 浩康

 

(KyodoWeekly3月11日号から転載)


PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ