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国籍付与は「パンドラの箱」か

 昨年の総選挙で勝利し、政権の座に就いたパキスタンのイムラン・カーン首相(66)が国内に滞在するアフガニスタン難民のうちパキスタンでの出生者に国籍付与を検討する姿勢を示したことが波紋を広げている。

 パキスタンは国籍付与に出生地主義を取り、憲法で1951年以降に国内で生を受けたものには原則、国籍が与えられると規定している。

 しかし、アフガニスタン紛争を逃れて流入し、国連などの保護下で暮らす難民について特別な事情を理由に歴代政権はこの原則の適用を避けてきた。国内には現在も約140万人のアフガン難民が居住し、既にその7割以上をパキスタンで生まれた世代が占めており、カーン首相が本気で国籍付与を考えるなら「パンドラの箱を開けるに等しい」との懸念の声が政界や官僚らから出ている。

 パキスタンへのアフガン難民の流入は、1979年末の旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻をきっかけに始まった。その後も繰り返された武装組織同士の戦闘や、イスラム原理主義勢力タリバンの支配などを逃れて越境が続いた。一時、約300万人の難民を抱えた。第三国への移住やアフガニスタン復興会議を通じた国際社会の支援で首都カブールなどが治安を取り戻し、一部難民の帰還が実現したものの、長期滞在者は既に40年に及んでいる。

 特にアフガンと国境を接する北西部のカイバル・パクトゥンクワ州では州都ペシャワルを中心に地元のパキスタン人に交じってビジネスの基盤を確立している人たちもおり、本国帰還には消極的だ。

 カーン首相は昨年9月「米国でも国内で生まれた人々に米国旅券が与えられる。パキスタンでも同じことができないのか。難民の境遇を救済すべきだ」との考えを明らかにした。

 これに対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)パキスタン駐在代表のリベンドリニ・メニクディワラ氏はカーン氏の方針に歓迎の意向を表明した。長年、国連を煩わせたアフガン難民問題を一挙に解決に導く糸口が見えてくるからだ。

 一方、パキスタンの国内世論は全面賛成するほど単純ではない。国連によると、2018年10月現在、パキスタンに滞在する登録アフガン難民は約140万人。このうち約74%がパキスタンで出生した人々だ。

 パキスタン英字紙に寄稿された著名コラムニストの記事も「国籍付与は一度に100万人の新たな国民を認定すること。福祉や経済政策で困難な問題が出てくるのは目に見えている。首相はパンドラの箱を開けようとしている」と指摘した。

 長年のアフガン難民滞在の裏で潜行してきたパキスタン人の反難民感情が一気に噴き出す可能性を懸念する声もある。この反難民の感情は難民と背中合わせで過ごしてきたペシャワルなどカイバル・パクトゥンクワ州で特に強いという。

 地元に居ついた難民は商売の面でもパキスタン人と競合関係にある。アフガン人がさらに市民権を得ることには強い不満を隠せない。もっとも、アフガン難民の多くは「破壊され尽くした国土とタリバンがいる国にどんな希望を持てと言うのか」と本国帰還は念頭にない。紛争に翻弄(ほんろう)されてきた民の悲劇は続く。

 フリージャーナリスト 須田 浩康

 

(KyodoWeekly3月4日号から転載) 


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