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「福祉テクノロジー」に学ぶ デンマークの介護現場から

 さまざまな領域でデジタル化が進んでいるデンマークでは、介護現場においてもテクノロジーが活用されてきている。世界でも最先端のレベルで介護のデジタル化が進むデンマークの事例から、これから本格的に介護業界でテクノロジーの導入を進めていこうとしている日本社会への示唆を探る。

 

 2、3年前のことである。デンマークで看護師や教員など専門職を育成する教育機関に勤める義理の叔母とランチを楽しみながら近況を報告し合っていたとき、福祉の実践にテクノロジーを導入することについての話題が出た。当時、既にデンマークの医療や福祉領域にテクノロジーが多く導入されていることは知っていた。

 だが、現場では反発や抵抗はないのだろうか。その問いに対し、人の手で行われるケアと、テクノロジーによるものを対比して「温かい手と冷たいテクノロジー」という言い方をすることがあると叔母は言った。これは特に、職員による抵抗感を表しているそうである。彼女によれば、実習などの経験が少ない、入学年数の浅い生徒の方が、抵抗感が強いように見受けられるという。しかし、抵抗が強かった生徒の考えが変わる瞬間を目にしてきたとも付け加えた。

 例えば、障害によって自力ではトイレに行くことがかなわず、生まれてからずっと介助を必要としてきた人が、機器のおかげで、人生で初めて「誰か」の存在を間近に感じることなく、1人で用を足すことができたその喜びを目の当たりにした時であったという。

 デンマークでは社会のデジタル化が進み、昨年7月に国連が発表した電子政府ランキングでは1位を獲得、欧州連合(EU)が発表している社会のデジタル化指標においても5年連続でヨーロッパ1位に輝いている。

 導入50年を迎えたデンマーク版マイナンバーであるCPRナンバーと医療データが結び付いた医療ポータルの活用や、遠隔医療・遠隔リハビリの全国展開など、医療分野でのデジタル化が進んでいる一方で、福祉分野で利用される技術は「ウェルフェア・テクノロジー」と総称され、現場での活用が進む。ウェルフェアとは日本語で福祉と訳されるが、デンマークでは個人の幸福を包含するような、より広範な意味合いを持っている。

スマート老人ホーム外観(筆者撮影)

「未来の老人ホーム」

 

 2014年に北部の主要都市、オールボー市で新たな試みとしてウェルフェア・テクノロジーを備えたスマート老人ホームがオープンした。その名も「未来の老人ホーム」。老人ホームという名称であるが、実際は日本のサービス付き高齢者向け住宅と類似の住まいであり、入居者は各部屋を借りている借り主である。

 下図に示したのは、ここに導入されているテクノロジーの一例である。筆者はこの老人ホームを対象にオールボー大学、大阪大学と共同研究を行っており、一部の職員と居住者にインタビュー調査を実施した。彼らが最も評価していたのは、この中でも床センサーである。特に夜間の巡回が著しく減ったことが双方にとって良い結果につながっている。

 居住者にとっては、見回りの物音が気になり、夜間に何度も目が覚めてしまうということが避けられるようになり、また自身のプライバシーが守られているという認識にもつながっている。職員にとっては、巡回による負担の軽減が実感されている。床センサーでは感知しきれないであろう、と予測されるリスクを抱える居住者への見回りに集中できるようになったことが大きい。

 このホームがオープンしてから約4年。もちろん、利点のみが実感されているわけではない。例えば、自治体の行政部門と介護現場で実際に働く職員との間にみられる認識のギャップが浮き彫りになった。

 スマート老人ホーム開設当初から数年間は企画に携わってきた行政職員が、ホーム内に出向のような形で常駐し、外部との調整を物理的に現場の内部で行っていた。介護職員とのコミュニケーションも多く持たれていたにもかかわらず、行政職員は老人ホームを高齢者にとっての日常の場ではなく、テクノロジーの「ショールーム」のように捉えてしまっていた面がある。

 一方で、実際に介護に携わる職員にとって、そのような認識に対する違和感が次第に形成され、職員の不満や施設長の交代という結果につながってしまった。現場では「先進的なテクノロジー」が必要とされているとは限らず、そのような認識の上での実践が重要である。

 介護需要の増加に反し、人材不足が深刻な課題となっている日本でもテクノロジーの担う福祉サービスは、今よりもさらに広がっていくだろう。デジタル化のフロンティアを走るデンマークが今まさに葛藤しながら、最適な方法を模索しているこのプロセスから学ぶ点は多くあるのではないだろうか。

[筆者略歴]

富士通総研

森田麻記子(もりたまきこ)

富士通総研経済研究所上級研究員兼慶應義塾大学GICセンター非常勤講師。神戸大学人間発達環境学研究科修了。主な専門は社会政策学(高齢社会政策、介護)。1984年大阪生まれ

 

(KyodoWeekly1月21日号から転載)


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