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朴恒緒監督ヒーロー現象

 昨年12月にシンポジウム出席のためにソウルへ行った。土曜日の夜、ホテルに帰りテレビをつけると、サッカー中継をしていた。アナウンサーが絶叫しているので韓国チームのゲームかと思ったら、試合は2018年東南アジア選手権スズキカップ決勝戦のベトナム対マレーシア戦だった。試合は1―0でベトナムが勝ったが、アナウンサーは、韓国が東南アジア1になったような興奮状態だった。これはベトナムの監督が韓国人の朴恒緒(パク・ハンソ)氏(60)だったからだ。

 朴氏がベトナムチーム監督に就任して以来の活躍は、ベトナム国民の心をわしづかみにした。監督就任わずか3カ月の昨年1月のアジア・サッカー連盟(AFC)23歳以下(U―23)選手権で準優勝、ジャカルタ・アジア大会でベスト4進出、今回のスズキカップでは10年ぶりの東南アジア諸国連合(ASEAN)王者と快進撃を続けた。

 ベトナム国内では朴氏は英雄扱いだ。スズキカップ優勝後、ベトナムの各企業が争うように報奨金の提供を申し入れているという。ベトナム政府は朴氏に友好勲章を授与した。

 朴氏は、選手時代は韓国代表になったが1988年に引退。2002年ワールドカップ(W杯)で韓国チームをベスト4に導いたヒディンク監督を補佐するコーチを務めた。ヒディンク監督から代表チームを引き継いだが、02年の釜山アジア大会は銅メダルに終わった。プロチームでも監督を務めたが1部リーグでの優勝はなかった。一昨年10月にベトナムチームの監督に就任した時にはベトナム国民の評価は高くなかった。

 フォーメーションをそれまでの4バックから3バックに変え、機動力を生かした戦術を始めた時はファンから批判を受けた。しかし、その後の快進撃は「朴恒緒マジック」としてベトナム国民を熱狂させた。

 眼鏡を掛けて、身長170センチ、体重62キロの朴氏はどうひいき目に見ても「スター」の風貌ではない。朴氏は言葉が通じないだけに、選手を直接マッサージしたり、飛行機ではビジネスクラスの席を譲ったりする人間的な接し方を重ねた。ベトナム人は今では、選手たちに父親のように接する朴監督を「師」と呼んでいるという。

 韓国とベトナムは地理的に離れているがさまざまな複雑な問題を抱えている。韓国はベトナム戦争に派兵し、韓国軍の一部が行った残虐行為は今も深い傷痕を残している。韓国軍兵士とベトナム女性との間に生まれた子どもたちの問題も引きずっている。最近では大量のベトナム人が外国人労働力として韓国に入り、韓国へ嫁いだベトナム人女性も多い。歴史的に見れば、韓国は加害者の立場だ。

 一方で、韓国とベトナムの経済的な関係は急速に拡大している。韓国の2017年の輸出対象国の1位は中国(24・8%)、2位は米国(12%)で、3位はベトナム(8・3%)だ。通関ベースで、韓国の17年のベトナムへの輸出は477億ドルで日本への268億ドルを大きく上回る。輸出入を合わせた貿易額では日本・韓国が819億ドル、韓国・ベトナムが639億ドルだが、数年以内に逆転しそうな勢いだ。

 歴史的な葛藤を抱えながらも経済的な関係を深める韓国とベトナムだが、朴監督の存在が両国を深く結びつけている。韓国はある意味で、朴監督という非常に有効な「外交資産」を得た。冷却化する一方の日韓関係にも、こうした「ヒーロー」が必要なのだが。

ジャーナリスト 平井 久志

 

(KyodoWeekly1月14日号から転載) 


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