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彼女の真意はどこにあるのか

 「この国には、2人の独裁者がいる。軍事政権トップのタン・シュエとアウン・サン・スー・チーだ」。10月上旬に来日したミャンマー政権トップ、スー・チー氏の映像を見ながら、十数年前に聞いた現地の長老記者の言葉を思い出した。イスラム教徒少数民族、ロヒンギャの人道危機問題に絡む質問に対し、反論を拒否するかたくなな表情で答える。国際社会でのイメージが短期間でこれほど変わった指導者も珍しいだろうなと思った。

 1980年代末から14年以上も軍政に自宅軟禁生活を強いられたスー・チー氏は、抵抗のシンボルで「聖女」だった。ノーベル平和賞受賞で国外にも知られ、髪に花をさし民族衣装で流ちょうな英語で毅然(きぜん)として話す姿は外国人を魅了した。ただし、スー・チー氏をよく知る人々からは批判が聞こえた。「他人の意見を受け入れず、合理的で冷たい」「外国暮らしが長い彼女は欧米的過ぎ、軍政と建設的な協議ができない」というのである。

 2010年に軟禁を解かれ、彼女が率いる国民民主連盟(NLD)が勝利した時、ミャンマー人の友人たちの表情は希望で輝いていた。知り合いの地元紙記者が「スー・チー氏は地元紙向けの記者会見を開かない」「彼女のスタッフが編集方針にしょっちゅう口出しをする」などとこぼしても、民主主義は一夜にして浸透しないものだ、などと知ったふうに私は言った。実際に国軍は力を維持し続け、他民族国家の複雑な問題も山積していた。

 だが、ロヒンギャ問題に対する彼女の対応は衝撃だった。国軍兵士が16年10月、集団レイプや虐殺を実行し多数のロヒンギャ住民が隣国に脱出したとの国連調査報告に彼女は沈黙した。一方で英BBC放送が報じたレイプ被害女性の証言を「フェイクニュース」と断じた。取材中に逮捕されたロイター通信のミャンマー人記者に、国家機密法違反で禁錮7年の判決を下した裁判は「正当」と主張した。

 70万人以上が隣国に脱出した「最大の人道危機」への対応に、カナダは名誉市民の称号を、米国のホロコースト博物館は人権賞を剥奪した。日本政府は「欧米とは違う対応で、民主化を支援する」と、ロヒンギャの居住地域、西部ラカイン州のインフラ整備に乗り出すと発表した。この地域で影響力を強める中国をけん制する狙いらしい。「アジア最後の市場」をめぐる各国の思惑が、問題解決を遅らせているように見える。

 政治家は、大きな目標に到達するためには政敵と手を結び、その力を借りなければならないこともあるだろう。国内では高い人気を維持するスー・チー氏は、厳しい現実と向き合うため、国軍と折り合いをつけながら目標へと歩みつつあるのだと、希望を持ちたい。

 それでも、と思う。レイプや虐殺を生き延びた人々が抱える痛みに、彼女は思いをはせたことがあるだろうか。人が自分の痛みを否定され世界から見放されていると絶望した時、劣悪な難民キャンプで育つ子どもたちが恐怖と憎しみを残り越える方法を教えられなかった時、それは負の力となって社会に跳ね返ってくる。絶望の底にある時、過激派の言葉は説得力を持ち、私は取り込まれてしまったー自爆テロの実行を一度は決意したチェチェン女性の言葉を思い出し、嫌な予感に胸が泡立った。

共同通信記者 舟越 美夏

 

(KyodoWeekly10月29日号より転載)


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