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孟氏に何が起きたのか ICPO総裁の拘束の背景

 10月初旬、中国出身の孟宏偉(もう・こうい)国際刑事警察機構(ICPO、本部フランス・リヨン)総裁が消息不明になったことをマスコミが一斉に報じた。後ほど分かったことだが、孟氏はフランスから中国に一時帰国し、飛行機から降りた途端に身柄拘束され、収賄容疑などで調べられているという。中国人として初めてICPO総裁に選出され、任期途中だった孟氏の身に何が起きたのか。

 

 中国当局に拘束される前、孟氏は妻に通信アプリを通じ、「身の危険」を知らせようとしたとみられる刃物の絵文字を送っていた。リヨンで記者会見した妻が明らかにしたもので、孟氏の失踪が世に知れ渡った。

 その後、国際世論の圧力もあって、中国公安省は10月8日早朝、緊急会議を開き、孟氏に収賄の容疑があり、身柄を拘束したと公表。中国外務省は孟氏の拘束理由について、極めて少ない字数で、ただ「違法」としか説明していない。

 

不幸の種

 

 しかし、彼の拘束にはもっと複雑な背景がある。

 孟氏はICPO総裁(拘束後、辞任)とともに、中国政府の要職にも就いていた。2004年に国家公安省次官に就任、国家海洋局副局長、副書記、中国海警局長なども兼任。16年にICPO総裁に就任した。順風満帆の人生にみえるが不幸の種は04年にまかれていた。

 10月8日に出された、中国公安省の緊急会議公告では、国家監察委が収賄容疑で、孟氏の身柄拘束を発表するとともに、「周永康(しゅう・えいこう)の害毒の一掃」と呼び掛けていた。その周氏とは、中国共産党中央政治局の前常務委員で、13年に摘発され、15年6月に収賄の罪で無期懲役となった。孟氏を04年に公安省次官に任命したのも周氏だ。このようなつながりで、孟氏の失脚は周氏に起因すると考えても不思議ではない。

 孟氏に不安を抱かせる、いくつかの出来事はあった。17年12月~今年4月、孟氏は国家海洋局副局長、中国海警局長などの職を次々に解かれていたのだ。

 周氏の〝子分〟と見なされた孟氏は、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席からの信頼を失っていた。それを感じていたのであろう、孟氏は必要性が薄いにもかかわらず、家族とフランスに住んでいた。

 これも習氏の逆鱗(げきりん)に触れたかもしれないが、さらに火に油を注ぐことが起きた。

 孟氏がICPO総裁在任中にもかかわらず、21年間も有効にしていた、亡命ウイグル族の組織を束ねる「世界ウイグル会議」の幹部への国際手配の命令が取り消されたのだ。幹部は民主化活動をしたことで軟禁され、1997年に中国から逃亡し、2006年にドイツに亡命した。

 中国政府は彼を東トルキスタン解放組織の主要幹部と認定し、本人が否定したにもかかわらず、「犯罪者リスト」に載せた。それを理由にその幹部を国際手配するように、ICPOに要請、認められた。

 しかし、ICPOは今年2月、その幹部への国際逮捕状について一転して無効にした。これに対し、中国政府は激怒した。孟氏は〝無能〟とみなされ、激しい批判を受けた。もともと周氏のことで信頼があまりないのに、この一件でさらに孟氏の評判が下がったに違いない。

 17年から中国政府の重要な職が次々と奪われ、公安当局の大きな行事にも登場できなかったことは、孟氏にとって身の危険を知らせる信号となっただろう。だから、妻と事前に話し合い、いざというときには、自分の状況を国際社会に知らせるのだと約束していた、と伝えられる。

 海外の中国系メディアの報道によると、中国政府は当初、孟氏に会議だとうそをついて、フランスから中国に呼び寄せ、その場で身柄を確保しようと計画。彼の妻も中国に呼び戻し、事情聴取をする予定だったという。

 

知り尽くした最高機密

 

 なぜ、中国政府は孟氏の拘束をこれほどまでに急いだのか。

 孟氏が「第二の王立軍(おう・りつぐん)になることを阻止しようとしたからではないか」との見方が有力だ。中国重慶市副市長、公安局長などを歴任した王氏は12年、四川省成都の米総領事館に駆け込み、政治保護を求めた。そのことが、当時、重慶市長だった薄熙来(はく・きらい)氏の失脚につながった。中国政府を震撼(しんかん)させたこの出来事は、孟氏が「第二の王氏」となるのではないか、と想像しても不思議ではない。

 フランスに家族と一緒に住む孟氏が、ICPO総裁と公安当局幹部の二重の身分で米国に亡命することは、中国政府にとっては絶対に避けたい危機だ。

 もし、彼の政治亡命が実現した場合、中国政府に与える打撃は計り知れない。というのも、孟氏は既に、ICPO総裁在任中に習氏を含め、政府高官の海外資産の実態を把握していた、とのうわさが流れているからだ。

 さらに、孟氏は公安局に勤めていたことで、中国人スパイなど、国家の最高機密も知り尽くしたに違いない。こういう機密を持って米国に亡命しようと、孟氏が考えていたとの臆測も出ていた。

 だから、中国政府は彼をずっと海外に置くわけにはいかないと考えていた。習氏がトップに就いて以来、反腐敗を武器に、まず軍人、金融関係者らを取り締まった。問題とされた組織のトップには、習氏に忠誠を誓った人物を就任させている。そして、今度は「公安」の番になったのではないかといわれている。

 これまでの中国政府のやり方をみると、孟氏の身に起こった不可解な事件は、習氏の深い闇と関係があると思わざるを得ない。そう考えなければ、国際社会からの非難を浴びても、こんな手荒いやり方をすることはまったく理解できない。

(中国ウオッチャー 龍 評)

 

(KyodoWeekly10月29日号より転載)


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