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急速に進むデジタル化社会 デンマークの最新事情

 九州ほどの面積に、兵庫県とほぼ同じ約578万人(2018年、デンマーク統計局)が暮らしている北欧の一国デンマーク。手厚い社会福祉で知られるこの国で現在、急速に進行しているのが、さまざまなレベルでの「デジタル化」である。その背景や現状を報告するとともに、課題を考えたい。

 

 「デンマーク」と聞くとどのようなイメージをもたれるだろうか。国連が発表する「世界幸福度報告書」では、7年連続で幸福度トップ3にランクインしており、「幸せな国」という印象をもつ読者は多いかもしれない。意外に思われるかもしれないが、そのデンマーク社会で今、急速に進んでいるのがデジタル化によるさまざまなサービスの転換である。

 

手厚く持続的に

 

 筆者は、過去5年間デンマークに暮らし、そのうち4年間は、納税者の1人でもあった。デンマークの社会福祉は高福祉高負担と言われる通り、初めは高い税率に度肝を抜かれながらも、実際の暮らしの中でデンマーク社会がどのように成り立っているのかを肌で感じることができた。高税率を受容している市民は公的機関に対して高い信頼を寄せる一方、行政サービスに対する彼らの目線は非常に厳しくもある。

 デンマーク社会は、日本と同様に高齢社会の到来によるさまざまな社会課題に直面している。その一つとして、日本ほど急速ではないにしても、長期にわたり緩やかなペースで上昇し続ける高齢化率に伴い、労働力の縮小に対する懸念がある。

 デンマークの就業率は男女でほぼ変わらない。また、今以上に労働力として移民を受け入れる政策は、現在の政治状況からみると考えにくいという点がある。このような状況で、生産性と効率性を保ちながら手厚い福祉サービスを持続的に供給していくために、政府は「テクノロジーの導入」を着々と進めてきたのである。

 デジタル化は、2000年ごろから医療と行政サービスにおいて進展した。その土台となっているのは1968年に導入され今年で50年を迎えるデンマーク版マイナンバー、CPRナンバーの存在である。これを基盤にして、2004年にはSundhed.dkという医療ポータルが整備され、市民と医療従事者の双方がポータル上で情報を共有、閲覧できるようになった。07年にはBorger.dkという行政サービス用のポータルサイトが整備され、役所の窓口に出向くことなく自宅のパソコンから簡単にさまざまな行政手続きができるようになった。

筆者の個人ポータルサイト、ログイン後画面

 例えば、引っ越しの際の転出や転入の届け出も自宅にいながら数分で済んでしまう。14年11月からは、一部の特別なケースを除き、行政と市民はオンライン上の電子私書箱を通じてやり取りを行うことが義務付けられている。つまり公的文書が郵送で送られてくることは一切なくなった。これらの発展の裏には常に、「シンプルで分かりやすい」サービスを市民に届けるという理念がある。

 これらに加え、近年は金融のデジタル化も進む。1980年代に導入され全国的に普及しているデビットカードが素地となり、キャッシュレス決済が全国的に広まっている。2013年に登場したモバイル・ペイと呼ばれるモバイル決済の影響も非常に大きい。

 16年には、小売店の売上高のうち現金での支払いは約20%まで減少している。現金の果たす役割が小さくなるにつれ、政府は通貨の国内製造をやめ、他国にアウトソース(外部委託)することに決めた。硬貨はフィンランド、紙幣はフランスで製造されることになり、デンマークの中央銀行から通貨の製造の役割は消えたのである。

 このようなデジタル化の現状に対し、課題もある。

 政府は、シニア層が社会システムのデジタル化に適応できるよう種々の講習などのサポートを提供してきた。ところが、ふたを開けてみると問題ないだろうと考えられてきた若者たちの方が、課題を抱えている実態が少しずつ浮き彫りになってきた。

 

ログインしない若年層

 

 例えば、14年より義務付けられた電子私書箱の使用に関して、政府機関が実施した調査によると、重要な連絡が来ているにもかかわらず、ログインすらしていない人の割合が最も高かったのは若年層であった。

 一方、心配されていたシニア層は全世代を通して最もサービスを活用していたのである。ツールとしてのテクノロジーに慣れ親しんでいても、こういったサービスを自律的に使いこなせるかはまた別の話であるという認識が生まれ、教育機関におけるカリキュラムの中で「デジタル化」を扱う授業は重要な位置を占めるようになっている。

 キャッシュレスの傾向についても、実際の金銭を手にするほか、目にしたことがない世代の金銭感覚の醸成という新たな課題が見え始めた。金融や資産管理に関する知識を身に着けてもらうためのプログラムを学校教育に組み込んだり、親と子がお小遣いの管理を通してコミュニケーションをとりながら子供の金銭感覚の学びに繋げるアプリが登場したりと、取り組みは進みつつある。

 「効率性」や「生産性」の追求とデンマークが価値を置く「個人の幸福」を同時に高いレベルで実現することはもちろん容易ではなく、常に試行錯誤が繰り返されている。このような先進事例の過程は、日本の実践にも有用な示唆を与えているのではないだろうか。

 [略歴]

富士通総研上級研究員 慶應大学非常勤講師兼務

森田 麻記子(もりた まきこ)

 神戸大学人間発達環境学研究科修了。2012~16年デンマーク国立オールボー大学政治学部在籍。主な専門は、社会政策学(高齢社会政策、介護)。1984年、大阪生まれ

 

(KyodoWeekly6月11日号から転載)


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