経済
政治・経済・国際の解説・分析記事

「ニッポン未来予想図」①〝公共事業〟悪玉論からの脱却を 「コンクリートが人命を救う」

 旧民主党の「コンクリートから人へ」のスローガンは、それまでの自民党政権が公共事業(コンクリート)に多くの税金を充てていたことに反対し、子育てや教育など「人」への予算拡充を訴えたものだ。「公共事業=税金の無駄使い」という間違った認識が多くの国民に共有されたが、コンクリートか人かの単純な対立ではない。(編集部)

 

削減し続けた日本

 

 JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)では、2017年、2019年の2回にわたって、欧州諸国に調査団を派遣し、大規模インフラストラクチャーの整備状況について調査を行った。

 ※JAPIC(ジャピック) 立国の根幹にかかわる事項の研究や、政府など関係機関に働きかけを行い、国家的なさまざまな課題解決に寄与し、日本の明るい未来を創生することをビジョンとする。1979年、任意団体として設立、2013年に一般社団法人に移行。会員は37業種、約230の企業、地方自治体、NPOなどで構成。

 日本より一足早く、成熟国家となった欧米諸国においても、発展途上国と同様、国家や地域の将来の発展のために、また短期的には景気を底上げし雇用を確保するために、積極的に新たなインフラプロジェクトに取り組んでいることを紹介したいと思ったからである。

 バブル崩壊以前のわが国においても、数次にわたる全国総合開発計画の策定に際し、本四架橋、東京湾アクアライン、高規格幹線道路網1万4千キロなどのさまざまなプロジェクトが提案され、次々に実現されてきた。

 しかし、バブル崩壊以降、財政規律至上主義の財政当局の強力な指導もあり公共事業費が削減されるとともに、それ以降の全国総合開発計画やこれを引き継いだ国土形成計画の策定に際しては、新たなプロジェクトの記載が厳しく抑制され、中長期的な投資見込みすら記載できないまま今日に至っている。

 次のグラフは、日本と欧米諸国の1996年以降における、一般政府総公的固定資本形成(Ig:国・地方などの公共事業費から用地費を除いた額)と国内総生産(GDP)について、1996年を1・00として推移を示したものである。

インフラ整備への投資にかかわる欧米と日本の推移

 日本はこの20年の間に公共投資を半減させ、GDPもほぼ横ばいであった(失われた20年!)。

 一方、欧米諸国は公共投資を大きく1・5~3・5倍に伸ばすとともに、GDPも1・7~2・5倍に成長している。

 今年5月31日に経済協力開発機構(OECD)がポストコロナの経済見通しを発表した。

 それによると2021年、2022年の日本経済の伸び率は2・6%、2・0%と、アメリカ(6・9%、3・6%)、ユーロ諸国(4・3%、4・4%)に比べて低い数字になっている。この差の要因の一つも公共投資を含む財政支出である。

 大幅な財政赤字がインフレをもたらすとの財政当局の主張の一方で、わが国や諸外国の大規模な赤字国債発行による補正予算にもかかわらず物価の上昇がみられないことから、まだ国債発行の余力があるとも考えられ、6月に出された政府の産業構造審議会においても大幅な財政出動を促す動きが出てきている。

 そろそろ、プライマリーバランス至上主義から政策転換を行い、本当に質の良いインフラプロジェクトに関しては、事業手法にも工夫を加えつつ、積極的に取り組むべき時期が来たのではないだろうか。

 

欧州の実例

 

 冒頭で述べたように、2度の調査で欧州諸国が数多くの大規模インフラプロジェクトに積極的に取り組んでいることが改めて実感された。以下は、わが国のインフラプロジェクトを考える上で大いに参考になるので特徴的なものを紹介したい。

 ①オーレスン・リンクとフェーマルンベルト・リンク(海を越え国境を越えて結ぶ道路・鉄道併用の橋梁(きょうりょう)・トンネル)

 デンマークのコペンハーゲンとスウェーデンのマルメを結ぶ海峡連絡道。総延長は15・8キロの道路・鉄道の併用構造で、橋(7・85キロ)・トンネル(約4キロ)とそれをつなぐ人工島(約4キロ)から構成されている。両国政府が均等出資したオーレスン海峡公社が約2400億円で建設。双方の陸上部は各国が出資する、デンマーク・オーレスン連絡公団、スウェーデン・オーレスン連絡公団が施工(各々約900億円、約250億円)。設計施工一括発注方式により、1995年着工、2000年7月全面開通。(資料1参照)

デンマークのコペンハーゲンとスウェーデンのマルメを結ぶ海峡連絡道=資料1

 さらに、デンマーク(コペンハーゲン)とドイツ(ハンブルグ)を直結するため、フェーマルン海峡を道路・鉄道併用トンネルで結ぶ17・6キロのフェーマルンベルト・リンクの建設も両国で合意され、2028年開通を目標に事業が進められている。

 ②ゴッタルドベーストンネル(アルプスを貫く世界最長の鉄道トンネル)

 スイスのアルプス山脈・ゴッタルド峠付近において、既存のトンネルより低い位置に建設することにより、勾配のきつい曲がりくねった山岳ルートの線形を改善し、通過時間やエネルギー消費を小さくするために計画された全長57キロの鉄道トンネル。並行する二つの単線トンネルは325メートルおきに連絡路で結ばれ、さらに列車がトンネル間を移るための渡り線と、非常時の脱出ルートとしての途中駅も2カ所設けられている。

 1999年、国民投票により整備・財政計画が承認され、2016年6月1日に開通、総工費は約1兆4800億円。(資料2参照)

出典:AlpTransit Gotthard社資料より アルプスを貫く世界最長の鉄道トンネルの工法説明図=資料2

 ③シュツットガルト21計画(大規模ターミナル駅の地下化)

 シュツットガルトはドイツ南西部の州都で、ダイムラー、ポルシェ、ボッシュなどの本社があるドイツを代表する工業都市。連邦政府が高速鉄道を計画する際、シュツットガルト中央駅はターミナル駅(頭端駅)で乗り入れの効率が悪いことから迂回(うかい)案が持ち上がった。

 これを回避するため駅を通過駅型に変更するとともに地下化し、地上部は市がドイツ鉄道から買収し市民参加型町づくりを目指して話し合いを進めている。2010年着工時に緑の党による反対運動があったが、翌年州民投票で6割の支持を得て現在工事は最盛期。2025年12月開通目標。総工費は約9800億円(2018年2月時点)

 ④ライプツィヒ新湖水地方の誕生(露天掘り跡の窪地を美しい湖に再生)

 ライプツィヒは旧東ドイツのベルリンに次ぐ2番目の大都市。60年にわたり褐炭(石炭の中で最も低品位)の採掘が行われ、その面積は40平方キロメートルにも及び、環境破壊の象徴であった。1998年に再開発計画の初期案が提示され、汚染地域における環境再生と経済活性化のための浄化再生事業にドイツ連邦政府と州政府が約1兆2千億円を投入。

 現在ライプツィヒの周辺には20カ所の湖が横たわり、市民だけではなく国内外の旅行者がレジャーを楽しむ水の楽園に変身を遂げた。

 

一極集中のリスク

 

 “国土の均衡ある発展”すなわち大都市の過密の弊害解消と過疎問題の解決は一貫して戦後の国土政策の中心課題であった。

 しかし、高度経済成長の中で第1次産業から2次・3次産業へと経済構造が転換し、それに伴い地方から大都市へ人口が流入、残念ながらその格差は拡大し続け今日に至っている。

 一方、大規模災害の頻発と直下型地震の可能性の高まり、さらには昨今のパンデミックの到来により、大都市とりわけ東京一極集中のリスクに対する危機感が国民共通の課題となり、テレワークやリモート会議などの働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展も相まって、大都市から地方への流れが促進されようとしている。

 このような動きを確かなものにするためにも、地方活性化の手立ての重要な柱であるインフラの整備活用が望まれる。また、人口が集積する大都市においても安全で快適な国土を実現するためのインフラの整備は喫緊の課題である。

 このような要請にこたえるため、JAPICでは2015年8月に東京都市大の中村英夫名誉総長の指導の下、60人余りの多岐にわたる分野の実務者が結集して、大都市から地方に至る新たな具体的なインフラプロジェクトの提案をすべく活動を開始した。

 2019年8月には委員から提案された全国140余りのプロジェクトを評価し、整備効果が高いと思われる18のプロジェクト、これに準じて必要と思われる22のプロジェクトを、おのおの「重点推奨プロジェクト」「推奨プロジェクト」として選定し、「提言!次世代活性化プロジェクト~BEYOND2020~(産経新聞出版)」として冊子に取りまとめた。

 プロジェクトの選定・提言に際しては、政府・民間を合わせた財源の確保、とりわけ民間資金・能力の活用、縦割りの壁を越えた総合的な事業、需要追随から需要創出、自然・歴史・文化なども含めた地域ブランドの魅力や相乗効果、既存ストックの有効活用などに意を用いて検討を進めた。

 現在、この中から12のプロジェクトを選定し、提言内容をさらに充実すべく検討を進めているところであり、まとまったものから順次公表し、JAPICとして実現に向けて強力に取り組むこととしている。次回以降、具体的に紹介をしていく各プロジェクトが、読者の皆さんの“ニッポンの未来予想”の一助になれば幸いである。

【筆者】

JAPIC国土・未来プロジェクト研究会委員長

パシフィックコンサルタンツ株式会社 特別顧問

藤本 貴也(ふじもと・たかや)

 

(KyodoWeekly7月19日号から転載)

 

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