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「手数料」から「残高」主義に 地方銀行、営業手法を転換へ

写真はイメージ

 今や、地方銀行における「金融商品提案」は、金融機関都合の営業をやめ、これまでの手数料主義から顧客の保有資産を増やす「残高主義」に移りつつある。地銀を取り巻く経営環境が背景にある。一方、企業などの法人取引を中心としてトラブルは依然として見られ、販売現場ではさまざまな課題が残っている。

 

 「今は『法個連携』を軸にお取引先さまへご提案しております―」

 関西地方の地方銀行支店長が営業方針をこう話す。法個連携とは、銀行で融資を中心に提案する「法人営業担当者」と、投資信託や保険などの預かり資産を提案する「個人営業担当者」が連携して営業することを指す。

 従来は一つの企業に法人担当者だけが営業していたが、個人担当者も訪ねることで、経営者個人のお金に関わる取引獲得も狙う。同様の趣旨で、法人担当者が個人分野の商品も同時に提案する地銀も出始めている。

 政府・日銀による「低金利政策」などの影響で、貸出金収益が縮小傾向にある地銀はここ数年、手数料収入を確保できる預かり資産にも力を注いできた。

 預かり資産は、販売時に手数料を得られる商品だ。

 そのため、既存の顧客に保有商品の売却を勧めて別の商品に乗り換えさせる「回転売買」を行うケースが相次いだ。

 これを問題視した金融庁は、2017年に金融機関の指針として「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表し、売れ筋商品に偏った提案や回転売買を是正してきた。

 金融機関にとって残る収益源は、顧客が持つ投資信託保有額の一部に課せられる信託報酬となる。そこで目指すのが顧客1人当たりの投資信託残高の拡大―手数料主義から「残高主義」へとかじを切り始めたのだ。

 冒頭に挙げた法個連携の取り組みも、保有資産額が大きい経営者と取引することで、銀行全体の残高拡大を目指す意味がある。

 

市場下落で法人提案に打撃

 

 残高主義は顧客の保有資産を増やすことにつながるため、それ自体は顧客の利益につながる方針といえるのだが、販売現場では課題も出ている。

 一つは、保有資産の残高が大きくなるほど市場下落時の値下がり幅も大きくなりやすいということだ。

 「2008年のリーマン・ショック以降に入行して大幅な下落を経験しておらず、対処に不慣れな行員がいる」(関東地方地銀の販売担当者)という声もある。

 地銀担当者が市場の変動時などにきめ細かく連絡してフォローしたり、単一の商品ではなくさまざまな商品からニーズに合うものを案内したりする提案力が必要となる。

 これに関連して金融庁は、20年に公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」改訂版の施策の一環として、さまざまな金融商品の内容をまとめて、顧客の商品検討をサポートする「重要情報シート」の準備を金融機関に求めている状況だ。

 

どう防ぐ優越的地位の乱用

 

 もう一つは法人提案における「優越的地位の乱用防止」の問題だ。銀行が企業に融資をする交換条件として預かり資産の契約を迫るような営業は、当局も指導しているご法度だ。

 しかし現実には、融資に影響があっては困ると考えた企業が「お付き合い」で取引するケースもある。

 残高主義の一環で、一部の地銀が企業の経営者に投資信託などを提案するようになり、さらには企業が持つ法人預金での購入を勧めるケースも出てきた。このような背景から、20年1月の高値から3月までに日経平均株価が3割も下落した「コロナショック」では、会社が保有する投資信託が含み損を抱えたという経営者が地銀の担当者ともめるケースが相次いだ。

 実際は、会社で保有する投資信託が下落したとしても、その含み損を自社の決算に反映する時期や金額は、顧問税理士と検討して調整できる場合がある。 ただ、販売した地銀はその肝心な説明が不足していたために信頼を失ってしまった。

 こうした預かり資産販売に対する企業の不満は、金融庁が19年11月に公表した企業向けアンケートでも見て取れる。

 地銀・第二地銀をメインバンクとする企業に、人材紹介やM&A(企業の合併・買収)など、提案を受けたサービスごとの満足度を聞いたところ、最も「満足していない」割合が高かったサービスが「投資・運用商品の購入」だったという。

 さらに21年度中にも、銀行と証券会社の情報共有を制限する「ファイアウオール規制」が緩和される見通しだ。大手企業への営業では、銀行がグループの証券会社と顧客情報を共有しやすくなる。融資だけではなく株式や社債なども一体で提案しやすくなるものの、優越的地位の乱用をどう防ぐかという問題は残ったままだ。

 元日本興業銀行で、大手行に預かり資産販売などを指導してきた、早稲田大ビジネス・ファイナンス研究センター上級研究員の米田隆氏は、ファイアウオール規制緩和に伴う金融機関の提案について、「顧客の投資目的や、銀行だけでなく証券固有の商品が本当に必要かどうかをよく聞き、それに合わせた適切な投資期間まで考えて提案する必要がある」と指摘し、警鐘を鳴らしている。

【筆者略歴】

近代セールス編集部 副編集長

藤沢 壮(ふじさわ・たけし)

1985年生まれ。金融業界紙や週刊エコノミスト編集部などを経て、2017年に近代セールス社入社。現在は、主に金融機関の営業現場を取材。銀行職員向けに金融の実務やノウハウ・業界動向などをマンガも交えて解説する雑誌「近代セールス」を制作

 

(KyodoWeekly7月12日号から転載)

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