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「安心安全」の約束―迷走するワクチン接種

写真はイメージ

 予想通りとはいえ、ワクチン接種が迷走している。菅義偉首相の強い要請によって、それぞれの現場が走り出しているが、達成すべき目標を示すだけで、実現の具体策は丸投げでは、効率的に接種が進むわけはない。小規模な自治体ではかなり高い接種率が実現しているところもあるが、全体ではまだ1回目の接種でも2割に遠く及ばない。

 首相官邸主導で実現した東京と大阪の大規模接種会場では、当初こそ予約が混雑したとはいえ、6月10日には予約枠が大量に余り、政府は急きょ、地域の制限をはずして接種希望者を募ることにした。接種希望がどのくらいあるかをよく考えもせずに始めたことだから、これくらいの見込み違いは許容範囲なのだろうか。

 県境をまたぐ行動の自粛を求めている時期に、ワクチン接種は必要なことだから認められるというのは釈然としない。長距離の移動は感染リスクを高めるだろうし、接種希望者の負担が大きすぎる。守るべき命の問題が二の次で、接種率を高めることだけが優先している。

 10日にオンラインで開催された全国知事会では、国に対して、各地の知事からワクチンの「配分量やスケジュールなどを早期に明らかにしてほしい」との要望が相次いだ。これにはあぜんとした。進軍ラッパを鳴らしながら、兵士たちは鉄砲弾薬をいつ手にできるか分からない、という戦いがあるだろうか。

 9日の党首討論で首相は10~11月には希望する人には接種が終わると明言した。ワクチンがいつ届くのかも分からないのに、どうすれば接種が終わると判断できるのだろう。早く終えたいという思いだけが先走るだけでは、いくら笛を吹いても、誰も踊りようがない。

 いったいどれだけの空約束を重ねて、口先だけの言い逃れを続けるのだろう。1日100万回接種という約束もまだまだ達成には時間がかかりそうだ。7月末までに高齢者の接種完了も未達に終わるのではないか。

 党首討論では感染対策を徹底して「安心安全な五輪開催」をすると繰り返し強調したが、「安心安全」という約束が守られる可能性は低い。

 しかし、言葉が軽く、念仏のように無意味な言葉を語り続けるだけの首相のことだから、「安心安全」の条件が満たされたと強弁して開催に突き進むに違いない。

 考えてみれば、政権の維持には五輪開催は不可欠ともいうべき要素になってきている。だから、五輪の開催は、政権の「安心安全」をもたらすということなのだろう。

 首相が五輪開催を強行して安全地帯に逃げ込もうともくろむなかで、国民は感染症と熱中症の挟み撃ちにおびえて身を縮める日々を迎えることになる。そんな悲惨な夏を迎えないため、菅首相には引き返す勇気がいる。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly6月21日号から転載)

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